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ローカル線の終着駅である峠坂に着くと、都川先輩が一人ポツンと立っていた。
眉目秀麗とは先輩のためにあるような四字熟語だ。
手足の長いスラッとした体型も、センスのいい服も、どこをとっても非の打ち所がない。
「先輩! お待たせしました。この古い趣のある駅舎をバックに、ちょっと写真撮らせてください」
私がスマホを構えると、先輩はまんざらでもない顔で気だるげなポーズをとった。
泉巳くんも早速車から降りて、ビデオカメラで駅周辺を映している。
「この駅をスタート地点にするか、車で行けるギリギリのところまで行ってから始めるか、その後の尺次第だな」
「はい。ただ山の中だけの絵だと飽きが来ると思うんで、出来ればここを使いたいです」
「そうだな」
都川先輩と泉巳くんが頷き合う横で、私は文字の消えかかった矢印型の小さな道標を見つけた。
巳泉村はあっちか。ここから徒歩だと無茶苦茶遠そう。
「あれ? 泉巳くんの名前を逆さまにした漢字だ」
私は今さら気づいてビックリしたけど、泉巳くんはとっくに気づいていて、そのせいで今回の投稿に目を留めたのかもしれない。
暴れる大蛇を村人たちは神と崇め奉り、若い娘を嫁入りさせた。
それはやっぱり大蛇を恐れたからだろう。
やだな。本物の蛇が出たらどうしよう。虫よけスプレーは全身に吹きかけるつもりだけど、蛇に効くかなぁ。
蛇の天敵って何? 三すくみだとナメクジだよね?
「おい! 町田、行くぞ! ボーッとしてんじゃねえよ」
都川先輩が私の首に腕を回してきたから、私はまるで拉致されたみたいに車まで引きずられていった。
「もう! 先輩はどうしてすぐそうやって手が出るんですか? 口で言えばわかるのに」
車が走り出しても、私はまだ先輩に文句たらたらだった。
峠坂駅に着くまでは助手席に座っていたのに、先輩に後部座席に押し込まれたから助手席のドリンクホルダーに入れておいたお茶に手が届かない。
細いくねくねの山道になってきたから、運転中の泉巳くんに頼んじゃ悪いし。
そう思っていたら、泉巳くんが「はい、これ」と私のペットボトルを渡してくれた。
本当に泉巳くんは気が利くし優しい。
「ありがとう」とお礼を言って早速キャップを捻って喉を潤すと、胸の奥までほんわかと温まった気がした。
ついこの間まで暑い暑いと言っていたのが嘘のように寒い。
まだ10月だからと、コートも着ないで来たのが間違いだった。
ベージュのマウンテンパーカーは可愛くてお気に入りだけど、東京の都会ならまだしも、こんな山に来るには薄すぎた。
せめて身体の中から温めよう。私がもう一口お茶を啜ると、隣に座る先輩が「ん? 寒いか?」と自分のダウンを脱いで私の膝に掛けてくれた。
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