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「それにしても番外編だなんていきなりだよな。蛇の嫁取りは都市伝説というより古くからの民話だろ?」
やっぱり先輩も泉巳くんの今回の企画がまさか通るとは思ってもみなかったようだ。
都市伝説は辞書によれば『口承される噂話のうち、現代発祥のもので、根拠が曖昧・不明であるもの』とされている。
都市で広まった話に限らず舞台が村落であっても都市伝説と呼ばれるけど、今回の蛇の嫁取りは現代発祥ではないから番外編というわけだ。
「約25年に一度、しかも10月に行われる秘祭ということで、ちょうどハロウィーンシーズンにぴったりだと思ったんですよ」
泉巳くんが珍しく得意げに語ったけど、彼が「行われる」と現在形で言ったことに苦笑が漏れた。
――その秘祭は今も続いている。
ラストのそんなナレーションが泉巳くんの頭の中には出来上がっているみたいだ。
「町田はどう思う? 今回の企画」
試すような先輩の質問に、私の背筋がシャキッと伸びた。
「そうですね。要は村の若い娘が天災を鎮めるために人身御供にされたってことですよね。嫌がる娘を父親が無理矢理差し出したとすれば、妻子を自分の所有物のように扱っていた家父長制的家制度の問題点を提起できるかな。とっくに滅びた制度なのに、いまだに考え方の根っこにあるオッサンたちがいますからね」
「『家族とは何か』というテーマに繋げてもいいよね」
泉巳くんは私の意見に賛同してくれたけど、都川先輩は「俺は村落の同調圧力が蛇より怖いと思った」と別の視点を投げてきた。
これだから先輩との言葉のキャッチボールは楽しい。1つの事象をいろいろな角度から見ることの大切さを教えてくれる。
「同調圧力か。泉巳くんの『家族』も捨てがたいしなぁ」
「そらちゃんの家制度を真ん中に置けば、『家族』にも『村落』にも広げられるんじゃないかな」
私は二者択一だと思い込んで悩んだのに、泉巳くんは3人のテーマを繋げるアイデアを出してきた。
「おお! さすが泉巳くん。その手があったか」と手を叩く私の横で、先輩が「テーマは絞らないとぼやけるぞ」と苦言を呈した。
「あとな。おまえら、下の名前で呼び合うの禁止」
先輩が突然そんなことを言い出したから、私は口を尖らせた。
「えー? 同期なんだからいいじゃないですか!」
「仕事は仲良しこよしの馴れ合いじゃないんだよ。前からムカムカしてたんだ。村野は日本一頭のいい大学を出てるかもしれないが、顔面偏差値は俺の方が上だからな」
泉巳くんがプッと吹き出すと、先輩は「あ! おまえ、今笑ったな!」と運転席の方に身を乗り出した。
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