蛇の嫁取り

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 道幅はどんどん狭くなり、うちの会社のワンボックスカーがギリギリ通れるぐらいの山道を登っては下りて、ようやく巳泉(みみ)村の手前の宮前(みやまえ)村にたどり着いた。 「地図によれば巳泉村の南西側が宮前村で、北東側が血ノ泉(ちのみ)村ですね。ホテルがあるってことは、血ノ泉村の方が栄えてるのかな」 「血ノ泉村は真っ赤な温泉がウケて一時期観光客が押し寄せたが、今は細々とやってるみたいだぞ」 「あー、つまり村の住民はほぼ全員ホテル関係ってことですか」 「巳泉村の温泉は白いみたいですよ」 「ホントだ」  3人それぞれが自分のスマホを覗き込んで話していると、「お待たせしました」とやってきたのが宮前村役場の近藤さんだった。 「大東京テレビの皆さんですよね?」 「はい、【都市伝説ハンター】チーフディレクターの都川です。こちらはアシスタントの村野と町田。よろしくお願いします」  「よろしくお願いします」と声とお辞儀を揃えた私たちに、近藤さんは「いやあ、みなさん美男美女でビックリしました」と相好を崩した。 「女優さんじゃないんですよね?」 「えー? 違いますよー! スカウトされたことはありますけどね。そういう近藤さんもイケメンですね」 「あはは。初めて言われました。あ、もうカメラ回ってるんですか? どうもー、観光課の近藤です」  近藤さんは急に姿勢を正して、泉巳くんが構えるビデオカメラに向かって手を振った。    「じゃあ、まずは役場にご案内します」と歩き出した近藤さんの後ろについていく。 「おい、どうして村野がカメラなんだよ」  最後尾を歩く都川先輩が小声で私に尋ねたのは、今回の企画が泉巳くんのものだからだ。  当然泉巳くんがマイクを持ってインタビューをし、私がカメラを回す。そういう段取りだった。 「泉巳くん、口内炎が痛くて滑舌(かつぜつ)が良くないんですって」  まあ、今日はあくまでも下見だから、本番のロケでは都川先輩がマイクを持つことになる。  先輩は声も声優並みに良くて、視聴者からの評判もいい。  私の声はハスキーだから大学に入るまではコンプレックスだったんだけど、都川先輩がサークルで褒めてくれて、それ以来堂々と人前で話すことが出来るようになった。  だから今日、泉巳くんに代わってくれと頼まれたときも、「いいよ」と軽い気持ちで引き受けたのだった。
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