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 到着したエレベーターは最上階で止まり、私は、平然と降り立つ二人の後を、少し離れてついて行く。  店は、両側に一軒ずつ。  向かって右がバーで、左が――和食のようだ。  そして、阿賀野さんが、そちらの入り口のドアを開け、私を振り返る。 「小野塚さん、和食は平気ですか」 「え、あ、ハ、ハイ」  反射のようにうなづくと、彼は、少しだけ背を屈ませて中に入る。  志賀は、当然のように後に続く。  そして、入り口で戸惑っている私に言った。 「おい、さっさと入れよ」 「――……っ……で、でも」  どうやって逃げようかと、動かない頭を何とか回そうとするが、 「いらっしゃいませ。――今日は、珍しいお連れ様がいらっしゃいますね」  にこやかに入り口でそう迎えられ、私は、目の前の、作務衣のような制服を着た男性店員と、二人を交互に見てしまう。 「ああ、お二人には、随分とごひいきにしていただいておりまして」  私の無言の疑問にサラッと答え、店員は微笑む。  そして、いつものように、なのか、意外と広い店内の奥を見やった。 「個室は空いておりますが、いかがいたしましょう?」 「ああ、お願いします」  阿賀野さんは、うなづくと、再び私を振り返る、 「気兼ねしないので、いつも、お願いしているんです」 「……は、はあ……」  気の乗らない返事をすれば、志賀が、不服そうに私をのぞき込む。 「ンだよ。別に、お前に払わせる気は無ぇよ」 「そっ……そういうコトじゃなくてっ……!」  ――個室、ってコトは、隙を見て逃げにくいじゃない!  ――……ていうか……逃がす気が無いってコトか……。  私は、微かにため息をつくと、店員の後ろを行く二人の後に続く。  その間、通り抜けていく席の女性の視線が、チラチラと向かっているのが、気まずくて仕方ない。  ――きっと、何で、私みたいなヤツが一緒なのか、と、思われているのだろう。  そんな思いに構う事も無く、店員は、一番奥へと歩いて行き、左にあるドアを開いた。 「では、失礼いたします」  中に入る私達を見送り、彼は頭を下げて、厨房へ戻って行く。  部屋は掘りごたつタイプで、阿賀野さんと志賀が隣り合わせに座り、私は、向かいに。  阿賀野さんは、慣れたようにメニュー表を取り、私に手渡す。 「穂積が言ったように、今日は僕達が持ちますので、お好きな物を頼んでください」 「あ、い、いえ。……お、お話聞いたら、すぐにお暇しますので」  顔の前で両手を振って断ると、志賀が、不満を隠す事無く言った。 「何でだよ。話があるから聞けって言ってんだろ」 「だからっ……聞いたら帰るって言ってるんでしょう!」  話というものが、ただのお説教だけな訳が無い。  きっと、昨日のアレコレに関するだろう事は、簡単に予想できる。  ――二人が恋人同士とか、別に、公言しようとは思ってないし――いっそ、忘れてしまいたいくらいなのに!  志賀と睨み合っていると、阿賀野さんが、困ったように言った。 「あの……二人とも、それくらいで」 「「え」」  彼の視線を追えば、お冷とおしぼりを持って来た、先ほどの店員が、苦笑いで待機していた。 「す、すみません!」  私は、慌てて身体を起こす。無意識に、志賀と顔を突き合わせる形となってしまっていたようだ。 「いえ、お話し中、失礼いたしました」 「と、とんでもない!」  思い切り首を振ると、彼は、営業スマイルで返してくれ、持っていたものをテーブルに置いていく。 「お決まりでしょうか」 「ああ、ハイ。本日のお勧めを一通りと――小野塚さん、何か食べたいもの、ありますか?」  阿賀野さんに尋ねられ、慌てて首を振る。 「いえっ!……お、お任せしますので……」  そう返せば、ニコリ、と、微笑み、うなづかれた。  ――その笑顔に、何か、含みがあるように感じたのは……気のせい、だろうか。
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