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《猫人間》
身体が優しい光に包まれ輝いたかと思えば、頭や腰辺りが妙な違和感を覚えた。触れてみるとどうしてだがフサフサとしている。
「なんだ……これ? なにが起こって――」
「君に呪いをかけたんだよ」
「……はい?」
どういうことかを尋ねればライラはステッキへ命令をした。
「シーシャ、武器から鏡に変換して」
「かしこまりました、マスター」
「ど、どういうこと?」
するとシーシャは黒いステッキから鏡へ変貌した。ミナミは声の出る黒いステッキにも不思議がったが一番不思議だったのは――自分の容姿だった。なんとミナミには猫耳と尻尾が生えていたのだ。
「なっ、なっ、なんだ、これぇっ!???」
鏡に映る自分を見て驚愕の表情を見せたミナミにライラは人差し指を差す。
「だから言ったでしょ。サプライズという名の代価、――呪いだって。君は本来であれば亡霊になるのだろけれど、精霊の力が強いらしいね。特に猫の力が強い」
「なっ、ど、どうしよう……」
尻尾をゆらゆらとさせて、猫耳を垂らすミナミにライラは近づいた。手に持っているのは猫用の餌である。
「よ~し、よしよし。ほら、エサですよ~。緑髪の猫ちゃん?」
「にゃ~んって違うわいっ! 俺はミナミって言う名前があるんだよ!」
餌をはねのけて自己紹介をするミナミにライラはシーシャをステッキに戻して考え込んだ。どうしてだが悩んでいる様子のライラにミナミは苛立ちを覚える。
なぜならこの得体の知れない少年が自分を猫人間に変えてしまったからだ。
「なぁ、クーリングオフとかできない? 俺、自分が猫人間だなんて恥ずかしくて外歩けないんだけど……」
「歩けているじゃん」
「そ、それはまぁ……そうだけどさ! お願いだから許してくれって!」
涙ながらに訴えてもライラの表情は変わらない。どこか難しい顔を帯びていた。そんな彼にミナミは息を吐いて墓地へと眺める。
すると、先ほどとは景色が違っていた。多くの人間が散歩をし、空を舞う精霊が居る。空を優雅に浮遊する精霊を見たのは初めてであった。
「……どうして、精霊が見えるようになったんだ?」
「精霊だけじゃないよ。亡霊も見えているはずだ。――ほら、そこでたむろっている三人組居るのわかるでしょ?」
視線の先には若い男たちが酒盛をしている姿が見えた。彼らは左からジョン、レイリー、ハーゲンと言う。三人は境遇が違うとはいえ、若くして亡くなりこの墓地で埋葬されたそうだ。
「やぁ三人とも。今日は満月ではないんだけど?」
「おぉライラか。それに……なんだその猫人間は?」
逞しい体つきをしたジョンが目を丸くすれば、ミナミは「俺は初め、猫人間じゃなかったんだ!」強く訴えるのだ。
雲が陰って満月ではなく三日月になっていた。
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