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《墓守》
奥へと手を引っ張られて連れてかれた先には大きな巨木がそこにあった。大聖堂の大木も一際大きいが、それよりも立派な巨木である。
そこに一人の小さな女の子が泣いていた。赤いドレスを着た金髪の少女が咽びながら嗚咽している。
ミナミが衝動的に駆け寄って赤いドレスの少女に視線を合わせた。遅れてライラも駆け寄る。
ミナミが耳をピンと立てた。
「君、大丈夫? どこか痛いのかな?」
「……足が痛い」
「足? 足って……」
足元を見るが足なんてものは生えていない。つまりこの少女は亡霊である。ミナミは自分が霊を見えることに嬉しさを抱かせたが、ライラは違うらしい。
「ミナミ、彼女から今すぐに離れて」
「え、どうして――」
「いいから早くっ!」
剣幕を立てられて少女から離れるミナミは尻尾を右往左往に振った。ライラは手元に札を引き寄せて少女に狙いを定める。
「君の真意はなに? それ次第では、君を地獄に堕とさないとならない」
「えっ!? そんなの可哀そうじゃん!」
だが少女は涙を零しながら歪んで笑ったのだ。
「私の望みは……私の足を切った殺人犯を殺すことだ!!」
すると赤いドレスの少女は大きなウサギのような怪物に変貌し、ライラに向けて突進した。唖然とするミナミにライラは札を貼付するため迎え撃つ。
「ミナミっ、君も手伝って! この怪物を蹴散らして」
「蹴散らすって言われてもっ、ってうぁ!? ウサギがこっちに向かってくる!!」
ミナミが四駆で駆け抜けたおかげでウサギの突進を妨げた。右、左へとウサギのパンチが向かうがミナミは避けるように逃げていく。
大木によじ登ったライラが巨大なウサギに向けて落下した。左手には札を、右手にはステッキを携えている。
「かの者を天の道へ! ――除霊完結」
ウサギが瞬いたかと思えば、赤いドレスの少女の姿に戻った。だが弱り切っている。
マントの懐から瓶を取り出し、パカンと蓋を開けた。
「君の足を切断した殺人犯は、僕がすでに地獄へ堕としているよ。ちなみにご両親もこの墓に埋葬が済んでいるんだ」
「ほ、本当?」
「うん。だから君はもう、誰を恨まなくても良いんだ。恨まずに、安らかに眠るんだ」
少女に聖水を降り注いだ。優しい青い炎に包まれて少女はにこりと微笑む。
「ありが……とう。嬉しい……よ」
「うん。また天国で会おうね」
片手をひらひらとさせるライラにミナミはその姿に尊敬の念を抱かせた。自分は祭司になりたいと願っていたが、墓守の魅力にも憑りつかれてしまったのだ。
大木の葉が揺れる。ライラが息を吸った。
「さて、これから君は僕の下僕……いや、手伝いになる」
「えっ!? そうなの!」
「呪いをかけたんだからその代価として君も手伝わないと祭司になれないじゃん」
実は墓守の仕事にも興味を持ってしまったミナミにライラは生欠伸をした。それから腕を伸ばして「じゃあそういうことで」そして別れてしまったのだ。
――猫人間のままで。
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