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《決められない》
翌朝。墓守も良いな、などと考えながらミナミは大聖堂へ向かう。ちなみに大きめのフードを被り、尻尾も隠すようにした。
オリリオがにこやかに出迎えてくれた。
「おはようって……どうしたのその格好? 可愛らしいけれど……」
オリリオの傍で羽を瞬かせた天使が首を傾けた。精霊が見えたとなると嬉しくなる。
「オ……オリリオさんの精霊が見える! やったぁ~、代価を払って良かった~!」
「代価って?」
「あ、そ、その……」
しどろもどろになってしまうミナミへ今度は後ろからフードを剥がす勢いでスハラがやってきた。下には背中に羽が生えた犬が居る。
捲られると猫耳がぴょんと立てられて、尻尾も立ちあがるミナミの姿にオリリオは驚愕し、スハラは深く息を吐いた。
「ミナミ……これは一体、どういうことだ?」
言及させるような鋭い銀縁眼鏡の奥でミナミは逃げ出そうと画策するが首根っこを掴まれて動けずにいた。
オリリオが瞳を輝かせながらミナミの猫耳にそっと触れていく。
「そ、それはですね……。あの墓地に行きまして、精霊や亡霊が見える代償として……その、代価と言いますか、なんていうか」
「代価だと?」
スハラのこめかみが浮き出て正直言って怖かったのだが「それで猫人間になったんです!」答えるとスハラは再び息を漏らした。
オリリオはしょげているミナミの耳を立てようと撫でており、それがまた気持ちが良い。
「まぁ良いじゃないか。ミナミくんのこの姿も可愛いし」
「お前は能天気すぎだ! 大司祭様になんて言えば良いか……あー頭が痛い」
頭を擦るスハラにオリリオが首を傾げた。
「その呪いに関してはなんか手がかりとかないのかな? どうすれば解けるとか」
するとミナミは「祭司になれば解けると言っていました」告げるとオリリオが笑みを零し、スハラは腹が立ちそうな表情を見せていた。
スハラの顔には文句があるものの、なにか考えがあるようだ。
「……わかった。とりあえず、ダメもとで祭司の試験を受けさせよう」
「僕もそれ思ったよ。良かったね、ミナミくん! ――これで君も祭司だ」
その言葉は確かに嬉しいものではあるが、ミナミは新たな夢を見つけていた。あの赤い髪の少年のように自分も霊と対話をして除霊をしたい。
そんな願いが詰まっていたのだ。
「あ、あの……お二人とも。祭司の件、待っていただけませんか」
「え、どうして?」
オリリオの声に反応してミナミは耳をピンと立てた。
「……墓守にも興味を持ったんです。どちらも大変な仕事だろうけれど、墓守も良いなって」
「ミナミ……」
瞳を見開くスハラにミナミはそれでも自分の真意を曲げることはなかった。
誰かがその姿をじっと見つめていた。――カンバラだ。カンバラはやけに真剣に見つめて、どこかへ去ってしまったのだ。
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