54人が本棚に入れています
本棚に追加
「え、ええ。確かにこんな条件のいい求人は他にはないですけど、正直胡散臭さもありますよ。曲がりなりにも自宅を警備する仕事なのに、ゲームとかで遊ばせてていいんですか? そもそもこんな素人をお金だして雇うなら、それこそセコ……ごほん、業者を雇うべきでは? 私なんて非力で、泥棒と戦うような腕力もないですし。ついでに言うと、武道も習った事がないです」
私は一気にまくしたてるように言う。これを受ければ借金がチャラになるかもしれないのに、自分を雇わない方がいい理由を並び立てるなんていう行動に出ているが、途中で「やっぱり役立たずだった」と放り出されても困るので。
ちなみに武道に関しては一応、短大の時に約半年だけ授業で柔道を習っていた事があるが、どう考えてもノーカンだろう。あんなのは経験の内に入らない。
「君は何か勘違いをしているね、この仕事は君みたいに明確な弱みを持ってる、切羽詰まった人間じゃないと任せられないんだ」
「それってやっぱりただの怪しいお仕事なのでは……?」
「全く怪しくはないさ、ただ、普通の人間ならやりたがらない仕事なだけで」
それのどこが怪しくないと言うのか? と私は大変疑問に思ったが、ひとまず男性の話を全部聞いてから判断しようと、思考を切り替える。
「この仕事はね、俺の家にずっと滞在できる人間でないと任せられないんだ」
「それはまぁそうでしょうけど」
「24時間365日、一歩も俺の家から出ないなんて事、君以外の人間の誰に任せられると思う?」
私はあまりにも人間の基本的な人権を無視しまくっている話に、頭が真っ白になった。
「えっそれ、単なる軟禁……」
「違う。単なる徹底した自宅警備だよ」
冗談じゃない。この人の家からずっと出られないとか無理すぎる。流石に外の空気をちょっとは吸いたいし、お日さまの光だって浴びたい。
最初のコメントを投稿しよう!