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しかしそんな私を嘲笑うかのように、男性はタブレットに写し出された「月収23万」の部分を、スマートな動きで指でなぞり、マーカーを入れた。
「これだけの給料があれば、借金30万なんて簡単に返せるし、この仕事を退職した後、次の仕事を見つけるまでの間の生活費だって賄う事が出来るだろう? 確かに労働条件は最悪かもしれないけど、今の待っているのは破滅しかない君が選べるのは、大人しく俺の家で囚われる道だけじゃないのかい?」
「囚われるとか言っちゃったよ、この人……! やっぱりこれは軟禁!」
「君の認識の中でそう捉えたいなら、そうすればいい。出来るだけ前向きに物事に向き合う方が未来の君にとってはいいと思うけどね」
そういう彼の中では、もう既に私が彼に軟禁される事は既定路線なのらしい。
そんなの嫌だ、絶対にこの運命に抗ってやる……! と勇ましく言ってやりたい所なのだけど、残念ながら私は金の力に負けてしまいそうだった。自分で自分が情けないが。
全ては借金が悪いし、もっと言うと私をこんな状況へ追い込んだ解雇してきやがった会社を憎んでいいだろうか。
もっともっと言うなら、この世の全ての不条理を燃やしつくしたい暴力的な衝動にすら襲われるが、それを表に出すのはぐっと堪える。一応、大人なので。
私がぐぬぬとなりつつも、男性に全く反論できないでいると、彼は愉快げに笑った。
「俺の言うことを聞いてくれる決心はついた?」
「う、うう、私、は……」
嫌だ、こんな色んな意味で趣味の悪そうな男の家に24時間365日閉じ込められなきゃいけないなんて……と思わず歯噛みする。
でも、どんなに悔しくても、やはり私は彼に屈するしかないのかと諦めかけていた所、救いの手は思わぬ人から伸ばされた。
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