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「お言葉だがイケメンさん……24時間365日も労働を強いるのは、36協定に違反するんじゃないのかい?」
「……借金取り!?」
まさか、この人から助け船が出されるとは……!
これが、リアル・昨日の敵は今日の友……!?
「俺だって昔は無茶な働き方をしたもんだし、今の若い奴らだっていくら法が整備されたってブラックな働き方をしてる奴らはたくさんいるだろうさ。でも、それだって物には限度があるだろう」
自宅警備員を通常のお仕事と同列に並べて話していいのか? という私の素朴な疑問をよそに、二人の会話は進行していく。
「へぇ、俺を支持していた君の口からそんな言葉が出てくるとはね」
「だって、お前さんは知っていて確信犯なんだろうけど、この世間知らずそうな借金踏み倒し女は知らんのだろう? ……労働者の年間休日数の最低ラインは105日って事を」
もちろんそんな日本社会の豆知識は初めて知った私だったが、「いやちょっと待ってほしい、そういう問題なのか?」という気持ちがむくむくと湧いてくる。
問題なのは、自宅警備員の仕事内容が実質軟禁である事じゃないの? 確かに休日もらえるなら、完全な軟禁にはならなくなるのかもしれないけど。
というか、労基法的な事で突っ込むのなら、24時間365日が労働時間のお仕事で月収23万円って、実は時給換算すると最低賃金を下回っているんじゃ……!? パッと見で高給かと思ってたけど、そんな事はなかった。
まぁこの実質ヒキニートになるだけの仕事内容で高賃金を望む方が間違ってる気もするけどね。
あぁ、何だか考えれば考える程、常識が歪みそうになる。月収23万円の自宅警備員って普通に意味が分からない。
「無計画に借金を作るような子に休日なんて要らないと思うけどね、馬車馬のように働いてもらわないと」
「イケメンさんも全うな善人っぽい面構えをしておいて、発言が過激だよなぁ……まぁでも、せめて週休二日ぐらいは休ませてあげてもいいんじゃねぇのか?」
借金取りは男性の瞳をじっと見つめてから、静かに言った。
「人間は不本意な形でずっと同じ所に閉じ込められていれば、いつかは狂う生き物なんだぞ……お前さんは別にこのお嬢ちゃんを、壊したい訳じゃないんだろう?」
「やけに実感がこもっているね、それは経験則?」
「ノーコメントだ」
男性は借金取りの言葉に何か感じる所があったのか、数秒間思案するように目を閉じた後、私に向かって手を伸ばしてきた。
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