借金取りからの逃亡

14/15
前へ
/44ページ
次へ
 そういって、男性はクレジットカードらしきものを取り出した。 「カードでいける?」  いける訳なくない!? と思ったが、借金取りの対応は柔軟だった。 「あぁ、うちの返済方法はカード決済にも対応してる。どんな時代の変化にもついていくのがうちのモットーだからな」  すごい、無駄に先進的だ。闇金もIT技術を取り入れていたりするものなのか。  しかしこれって、実質私の身柄引き取り料だと思うんだが、クレカで払われてしまうのか。  自分自身の価値がキャッシュレスになったかのような感覚に哀愁を感じる。  今は現金を使わない世の中になりつつあるが、やっぱり紙のお金にしかない価値もあるなと何だか実感してしまった。  しかし、男性はお店でよく見るようなクレカ支払いに使う機械を取り出した後、首を傾げた。 「すまん、どうやらこの機械が今、壊れているみたいだな。後払いでいいか?」 「そちらがそれで困らないなら構わないよ。こちらとしては、どんなタイミングで払っても構わないからね」  30万をどんなタイミングでも払えるだなんて一度は言ってみたいな……と借金までしてしまった貧民としては思いつつ、そのぐらいでないとヒキニートを飼うような余裕はないよなと納得する。  そういえば、この人の素性に関する情報を全く教えてもらっていないが、名前ぐらいは聞いた方がいいかもしれない。  ……聞いてみるか。 「ところで、あなたの名前は? 私の名前は檜山杏です。杏の漢字はあんずと書きます」 「知ってるよ。俺は君の事なら、何もかも」  ……何もかも!? 「こ、怖……でも、流石に目玉焼きは両面焼きが好きな事は知りませんよね?」 「へぇ、そうなんだ。目玉焼きを焼いたハムと一緒に食べる事が好きな事は知っていたけど、その情報は初めて知った」  何で平静そうな顔をしつつも、若干声が弾んでいるんだ、この人。  私の目玉焼きの好みの情報なんてどうでもいいでしょ。私の新情報がそんなに嬉しいの? と受け取れてしまうような反応をされても、怖いよ。  ……目玉焼きをハムと一緒に食べるのが好きだったのは中学生ぐらいのことで、今はベーコンと食べることにハマっている情報はこの人には与えないでおこう。  また変な反応をされても困る。
/44ページ

最初のコメントを投稿しよう!

42人が本棚に入れています
本棚に追加