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そして、それが分かった瞬間、周囲は皆、手のひら返しをした。
『私たちを騙していたのね! あんたなんてモブに等しいβだったんじゃない!』
『どう誘惑したらαのあの方の恋人になれたの? 気持ち悪い』
『お前を運命の番のΩだからと大事にしてたあいつに謝れ!』
私は周囲のそんな声の数々に負けて、ストレスを抱え込んだ末に、あっという間に不登校になった。
しかし、自分の家に引きこもる私の元に、私が運命の番どころかΩでないと分かってからも、彼は毎日訪れてくれた。
『今日はお菓子を持ってきたんだ。プリンがおすすめだよ』
『君が好きだといっていた漫画を買ってみたんだ。初めて読む分野の話だったけど面白いね、君はいつも俺に知らない世界を教えてくれる』
『おすすめの映画を持ってきたんだ。空いてる時間にもし良かったら見てくれたら嬉しい。君の感想が聞きたいんだ』
彼は私の事をもう『運命の番』だとは言わなかった。
以前のように腐る程好きだとも、愛してるとも、言ってはくれなかった。
その代わり、彼は無駄に忙しかった生徒会長としての仕事と彼の実家の会社経営の勉強や学業にあてる時間以外をすべて私の為に使ってくれた。
私はそれが、申し訳なくて申し訳なくて仕方なかった。
……きっと優しい彼は、私に同情してくれてるんだ、私が不登校になってしまった事に責任を感じていて、罪滅ぼしのつもりなんだ。
そう思う気持ちはあるのに、私は毎日家に来てくれる彼を拒絶できなかった。
……私は彼の事が好きだったから。
私は彼の優しさに甘えながら、ずるずると家に引きこもり続けた。
でもそんな日々はいつまでも続かなかった。
……私は親にまで、見放されたのだ。
『αのあの子には他に運命の番が出来たらしいじゃないか。いつまでも自分の元にこの国を背負って生きるαを縛りつけていて恥ずかしくないのか』
『家に引きこもられるのも迷惑なのよ。いい加減私たちも限界なの』
私に優しかった筈の親の豹変に、私は学校で誹謗中傷にあっていた時よりも傷ついた。
私は親からの愛をも失ってしまったのだ。
それに、きっと彼からの愛も私は失っていた。だって、親が言うには、彼には運命の番が出来たのだから。
両方のショックで、私は立ち直れない程の衝撃を覚えた。
私は親に言われるがまま、彼に別れも告げないまま、遠い田舎にある引きこもりの子供たちが心のケアをするNPO法人へと向かわされた。
当時の私は不幸の絶頂だった。
彼にも親にも見向きもされなくなった私はきっと、生きる価値はないのだろうと思ってしまっていた。
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