いざ彼の住み処へ

3/14
前へ
/44ページ
次へ
 少し前を振り返ってみよう。  楓さんと手を繋いで往来を歩く羽目になるまでには色々とあった。  私と楓さんは借金取りと一旦別れた。借金取りは「後で絶対に金は返せよ」と何度も念押ししていた。  楓さんと借金取りは別れ際、しっかり連絡先を交換していた。  ちなみに私の連絡先は借金取りにすでにバレており、夕日に向かって追いかけっこをする以前から電話やメールでの取り立てもすごかったのだが、それは別の話にするとして。  その後、楓さんは「後で必要なものは自宅に取りに戻っていいから、今日から早速俺の家で暮らしてほしい」と言い出した。 『俺の家には君の暮らしに必要になるであろうものは一通り揃ってるよ。自宅には休暇となる日にでも戻って荷物を取ってくるといい。何なら俺の信頼できる部下に君がいない間、不審者が入らないように君の自宅を見張らせる事も出来るけど、どうする?』  私じゃなくてその部下に自分の家の警備をさせる方が良くないですか? と思ったが、口には出さなかった私を誰か褒めてほしい。  自分の家を警備させる為に雇った人間の自宅を部下に警備させるという新手の回文(ある意味怪文でもある)みたいな状態も意味が分からないし、そもそも私の自宅は泥棒に入られる程の資産もない。という訳でその申し出は断った。  何故か楓さんは滅茶苦茶食い下がってきたのだが、私は頑なにノーと言い続けた。  どうやら楓さんはまだ諦めていなそうだったが、とりあえず私の勝利で今回の話し合いは収まって良かったと思う。  ただ、部下に自宅を見張らせるのは断ったが、楓さんの家に今から行くという申し出は受け入れた。  どうせこれからしばらく楓さんの家で暮らす事になるなら、行くのが早くても遅くても変わらない。  彼から一時的に逃げる事が出来たとしても、結局は捕まるなら、腹を括るのは早い方がいい。  彼の言う通り、休みのタイミングで自分の家の荷物を取りに戻れるなら、私としては問題はなかった。    ……何で私の暮らしに必要なものが既に一通り揃ってるのかは大変疑問だし、追求するのも恐ろしいが。  もしかしたら、以前から自宅警備員を雇う為に、私のようなちょうど良い弱みのある人間を見つける前からせっせと準備していたのだろうか。  彼がいつから自宅警備員を雇いたいと思っていたのかは不思議だが、そう考えれば納得できるかも。ちょっと苦しいかな。  とにかく、そんな訳で私は楓さんに連れられて、彼の自宅に手を繋いで向かう事になったのだった。
/44ページ

最初のコメントを投稿しよう!

42人が本棚に入れています
本棚に追加