いざ彼の住み処へ

4/14
前へ
/44ページ
次へ
「ところで、君は異性の自宅へ招かれた経験は?」  場所は変わり。私と楓さんは未だに手を繋いだ状態で、電車へと乗っていた。  どうやら彼の自宅は、さっきまで現在地だった私の家の付近からは結構離れた場所にあるらしい。  私の今まで暮らしていた自宅は東京の近隣の県の端の方だが、楓さんは都心の方に自宅があるようだった。何でも、勤務地である新宿に近い所に住んでいるらしい。  何で都心の方に勤務地も住み処もあるような人間が、笑っちゃうぐらい何もないような片田舎にある私の家の付近にわざわざいたのかは心の底から謎である。  しかしそんな事を聞いてもちゃんと答えてくれそうにはなかったので、私は何も言わないでおいた。無駄な労力を使いたくはない。 「異性の自宅に招かれた経験ならありますよ、何度も」 「は? ……何度も? 今まで君には彼氏はいた訳でもないのに?」  楓さんはツンと澄ました無表情のまま、声音にはしっかり不機嫌が滲み出た様子で言った。  こ、怖……しかし、私の中には怯えだけでなく、微妙にイラッとする気持ちも湧いてきていた。  彼氏がいた事がない……? 何でそんな決めつけたような言い方をするの?  失礼な話である。確かに私はそんなに異性に恋愛的な意味で惚れられるタイプではないけど、男性の知り合いは人並みにいる。  これでも一回ぐらいは恋人が出来た事はあるよ、一回ぐらいは! ……まぁ、あれをちゃんとした彼氏とカウントしていいのかは微妙な所だけども。  結局、中学時代の「彼」の事がどうしても忘れられなくて、あっという間に別れちゃったしね。今でも友達としてはそこそこ付き合いはあって、この前一緒に飲みに行ったりもしたけれど。
/44ページ

最初のコメントを投稿しよう!

42人が本棚に入れています
本棚に追加