いざ彼の住み処へ

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「私の事を何でも知ってるなんて言ってたのが大嘘なのがこれで確定しましたね」  私はふふんと挑発するように笑った。  髪も手でファサッとモデルのように靡かせてみる。  我ながらうざすぎるムーヴであるが、楓さんも狙いどおりイラッとしてくれたみたいだった。ずっと無表情だった楓さんの表情がみるみる内に般若のように歪んでいってるから。  ……あれ、でもこれは何だか想像以上に怒らせてしまっている、ような?  楓さんは電車の扉にとんっと手をついた。  前には楓さん、後ろには電車の扉だ。私は楓さんの腕の囲いの中に閉じ込められた形となる。  こ、これは、噂に聞く壁ドンというやつじゃないか!?  まさか生きてる間にこういう事をされる経験が出来るだなんてと、恐怖以上に感動が勝ってしまった。  こんなの、少女漫画の中だけでしか存在しないものだと思ってたよ……!  あ、もちろんときめきの感情は皆無です、はい。 「杏。俺が怒っているのは分かる?」 「もちろん分かります!」 「じゃあ何で怒っているのかは?」 「分かれってほうが無理です!」 「とても元気な返事、ありがとう。やっぱり君は未来永劫俺の家から出さない方がいい事がはっきり分かったよ。求人票から週休2日を消そうかな」  未来永劫って、それはつまりエターナルフォーエバーに楓さんの家に閉じ込められ続けるって事!?  ……いやこれ、ただ単に未来永劫を英語で言い替えてるだけじゃん。口に出していたら、楓さんにも突っ込まれていただろう。  冗談にしても不穏すぎる言葉に私はビビったが、何か言い返さなきゃと必死に口を動かした。
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