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「ちょっと、やめてくださいよ! 別に恋愛的に好きで付き合ってた訳でもない、一週間で別れた彼氏の事でそんなに怒られても困ります!」
そう。実は私はその元彼とお互い恋に落ちて、お付き合いを開始した訳ではないのである。
友達として親密で、よく会っていた子がたまたま男女交際に興味があり、何となく彼氏彼女に発展しただけだった。
短大に通いつつ一人暮らしを開始していた頃に、NPOでお世話になっていた時代から仲良しだった男の子に、
『こんなに僕たちは距離が近くて、頻繁に会ってる。いっその事付き合うのもありだろ』
と言われ、なし崩しに恋人になったという流れだったのだが、結局私が『何か違う』と切り出し、男の子も『そうだな』と同意して、一週間であっさりお別れしてしまったのである。
私にもその子にもお互い恋心はなく、やっぱりどんなに友達として仲が良くても、恋人として付き合うのは別なんだなとその時実感した。
私にとっては「他の男性と付き合えば中学時代の「彼」を忘れられるかな」という不純な動機で付き合っても、上手くはいかないのだという教訓にはなった。
……その結果、今でも中学時代の「彼」以外の男性に恋する事なんて出来ないまま、彼氏いない歴を積み重ねる人生を歩む事になっているのだが。
「私はその元彼とちゃんと恋が出来ていた訳ではないですし、その子ひとりをカウントしないとしたら、確かに彼氏いない歴イコール年齢ですよ」
内心「何でこんな事を話さなきゃいけないんだ」と苦渋に感じつつ、言い訳するかのように自分の喪女っぷりをアピールした。
……そういえば、NPO法人にいた時代の人間関係はあんまり人に話してなかったから、大学以降に知り合った人には、初めて元カレ(?)について話したかも。
大学以降に知り合った人には彼氏は出来た事がない事にしておいておいてる。引きこもり時代や引きこもりを支援する団体にいた事があるといった話、その頃に知り合った人達の話は、余計な詮索を受けるのを避ける為、話していなかったのだ。
これはNPO法人の人に勧められてそうしている。私にとっては悪い思い出でなくても、世間から余計な同情やその他好奇の目を向けられるのは苦しいだろうからと。
楓さんは少し表情を緩めたが、その顔にはまだ険しさが残っていた。
「……杏は俺の送り込んだ人間に全て真実を伝えていた訳ではなかったのか……」
「はい?」
「なんでもないよ」
楓さんはコホンと咳払いをした後、私を鋭い目で睨みつけた。
私は別にそんな目で見られるような事はしていない筈なのになぜ。
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