いざ彼の住み処へ

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「君は俺の気持ちを弄ぶのが好きなのかい? 君が今言ってる事が本当だったとしても、俺は君に対して失望しか湧いてこないけどね」 「失望?」   そういって楓さんは苛々とした様子でため息をついた。  何で彼氏がいた事があるからといって失望?  楓さんの動揺と苛立ちと寂寥感の混じった、感情的な様子を見せている。彼にしては珍しい、とても感情的な様子だ。  ……恐らく、楓さんは怒ってもいるんだろうけど、悲しんでもいるんだ。  私は楓さんに決して悪い事などしていないと思うのに、何だか少し罪悪感が湧いてきた。私は楓さんを悲しませている事に責任なんて感じなくてもいい筈なのに。   「本当に馬鹿みたいだ。俺だけが君の事を覚えていて、俺だけが君に人生の主導権を奪われて続けている」  楓さんは昏い光の宿った瞳で私を見ると、私の頬から首にそっと手のひらを這わせた。  そんな彼の様子に、私の心臓は何故か高く跳ねる。  楓さんの私を見る瞳は、怖くはあったけど、あまりにもまっすぐで、真摯だったから。 「でも、これからは君にも俺と同じくらい、俺に人生の主導権を明け渡してもらう。君には俺をこんな風にした、責任をしっかり取ってもらわないとね。もう杏は誰にも渡さない」 「あ、あなたは私の……何なんですか?」  私は楓さんの様子に怯えつつも、必死に食らいつくように彼の瞳をじっと見つめた。  楓さんはそんな私を見て、何故か嬉しそうに笑った。  ずっと無表情か嘲笑みたいな表情が多かった彼の、珍しく見せた純粋な笑顔にみえる顔にまたもや心臓が少し跳ねる。  こういう感情の動き方は中学時代の彼にしか感じなかったもので、私は酷く戸惑った。  何でこんな自宅警備員をよく分からない理由で雇うような意味分かんない人に、私はこんな気持ちの揺れ方をしているの……!? 「杏は俺の……」
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