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「え、イケメン? 俺が?」
どうも、本気で動揺していそうだった。
私も何でこんな事でそんなに? とびっくりしてしまう。
「それは君が、俺の事をかっこよくて、容姿も端麗だと思っていると受け取っていいのかい?」
「自分でそこまで言っちゃうのか……でも、楓さんが私が会ってきた人の中でも上位に顔立ちが整ってるのは事実ですよ」
私がそう言うと、楓さんは手で口元を抑え、急に黙り込んだ。
まるで自分の表情を私に見られたくないかのような仕草だった。
「…………」
「楓さん、どうしました?」
「やっぱり俺が君に振り回されなくなる日は、一生来ないんだろうな」
「は?」
それは一体どういう意味ですかと聞こうとして口を開こうとした直後、次に降車する駅の名前を告げる無機質なアナウンスが電車に流れた。
「次はー、大崎ー、大崎ー」
彼は何事もなかったかのように壁ドンをやめ、私の手を再び握りしめた。
すっかり楓さんは平静に戻ったようだ。何というか、切り替えの早い人だなぁ……。
「次だよ、俺たちが降りる駅は」
「楓さんは大崎にお住まいなんですか?」
「そうだよ」
「大崎って来た事ないです、ちょっと不安かも」
私にとって大崎は地名を聞いた事があるぐらいの場所だ。「渋谷の近くだっけ?」ぐらいのふわっとした認識で、全くの未知の地域だった。
友達と遊びに来た事もないし、何があるのかも全く知らない。
私は思わず楓さんの手をついぎゅっと握りしめてしまう。うっかり彼に縋るような仕草をしてしまった事に羞恥心が湧き、一瞬でやめたが。
一度も足を踏み入れた事がない場所にいきなり住むという事で、今さら怖じけづくような気持ちが湧いてきたのである。
怒涛の展開で麻痺していたが、昨日まで全く知らなかった男性の家にいきなり二人で暮らすなんてこと自体、緊張だってする。
やっぱりこんな、おかしな自宅警備員の契約なんて、やめた方が良かったんじゃ……。
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