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走る。走る。とにかく私は男性から逃げられるよう、ダッシュし続けた。
夕暮れに大陽に向かって走っているとなれば、青春ドラマのようだが、現実は真逆である。
「……はぁっ、はぁ……!!」
「待てーっ! この借金踏み倒し女!」
さて。会社から解雇されて人生のどん底にいた筈の私だったが、今現在、底には更に底があった事を実感している最中である。
実はうっかり怪しい金貸し業者に今月の生活費を借りてしまい、トイチで利息を増やされた結果、お金が返せない事態になってしまったのだ。
そして今はその返済から死にものぐるいで逃げている(比喩ではなく行動として)所である。
幸いにも追いかけてくる借金取りは一人だ。まだやれる。まだ私、いけます。
捕まったら終わりだ、聞き間違えでなかったら、「あの女ソープに沈めてやる」とか言ってた気がするし冗談抜きで死ぬ程酷い目にあいそうだ。
でもこのまま逃げ続けても助かる未来が見えない気がするし、どうしたら……
「……杏?」
そんな事を考えて冷や汗をかきながら爆走していた所、私の腕を掴む人が現れた。
何!? 逃げてる最中に迷惑すぎる!
私は咄嗟に振りほどこうとするが、抵抗らしい抵抗にならなかった。
私はチッと舌打ちし、その人の足を思いっきり踏もうとする。
すると、こやつは足をナチュラルな動作で動かし、私を避けた。
何、この無駄なスマートさ!? 焦っていて顔も全体像も見れていないけど、なんて小綺麗な振る舞いなの……!?
慌てて逃げていたから、ちゃんと聞き取れていなかったけど、私の名前を呼ばれたような気がしたし(気のせいじゃなければ)一体何なんだこの人。
「待てー! 借金踏み倒し女はここで年貢の納め時だ!」
そうこうしてる内に私の所に借金取りが迫る。
借金取りの脅しの言葉に、表現が絶妙に古くないか? と思うが、そんな事を突っ込んでる余裕なんてない。
このままこの人に引き留められ続けていたら借金取りに捕まってしまう。
私は焦って、さらに抵抗しようとじたばたした。しかし無駄だった。ちくしょー!
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