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「それにしても、杏は借金してお金が返せなくなって追われる羽目になるぐらいに追い詰められてたんだ? そんなどん底まで身を落として、可哀想に」
「……うわ、同情の気持ちが欠片もない、滅茶苦茶小馬鹿にしてる感じの「可哀想に」だ」
「流石の俺も借金踏み倒し女にドンマイという言葉を送るぜ。それはそれとして落とし前はちゃんとつけてもらうがな」
私は顔をひきつらせる。
男性のあまりにも皮肉げな対応のお陰で、借金取りが私に対して同情ムードを醸し出し始めたのはいい。
が、このままだと私は男性によって借金取りに引き渡され、酷い目に合うのは確定的だった。
男性は私の肩に手を回し、ぐっと掴む。
何するんだこいつと思っていると、男性はおもむろに借金取りに話しかけた。
「ところであなたは、杏ちゃんにどれぐらいお金を払わせたいのかな?」
「それを知ってどうする?」
「俺は杏と昔、関わりがあったからね。どれだけこの子が落ちぶれたのか、知りたいだけさ」
「優しげな風貌なのに本当に悪趣味なお兄さんだな……いいだろう、教えてやる。この子は俺たち「指定金貸し団・お金、貸し枡」に30万借金しやがったんだ」
そう、私は30万も借金してしまったのだ。
生活費と払えない家賃に生命の危機を感じ、ネットで見た「指定金(以下略)」の広告を見て、藁にも縋る思いでお金を借りてしまった。
今思うと馬鹿な行動だったと思う。
お世話になってたNPO法人に頼ったりとか、色々やりようはあった筈なのに。
「30万? ……へぇ、30万、ね」
それがどういう気持ちでの言っているものなのかは分からないけど、彼は「30万」を何度か反芻すると、無感動に言った。
「君は俺から離れても幸せになれた訳ではなかったんだな、それなら俺に依存したまま外の世界を知ろうとなんてせず、大人しくしていれば良かったのに」
「あなた、さっきから一体何なんですか? そんなに私を貶めて楽しいですか?」
「はは、そりゃあ楽しいね。俺から逃げた今の君が不幸であればある程、胸がすく気持ちだよ」
「……いや、私はあなたと会った記憶なんて、全然ないんですが……?」
そういいつつ、私は初めて彼の顔をじっくりと見た。
……すごい。そこにいたのは、びっくりする程の美形だった。
亜麻色に染められたふわりと巻かれた髪、ほんのり茶色がかった瞳。甘いフェイスの優しげな風貌に反して、私と目があった彼は本当に不機嫌そうだった。
たまたま仕事帰りだったのだろうか、ビジネス用らしき鞄をもち、カジュアルなスーツを身につけている。
……しかし、全然、全く、驚く程、彼の事は身に覚えがないのだ。
え、なにこの人、後方知人面をしつつ私を小馬鹿にする謎のイケメンってわけ? 正直、不気味で微妙に気色悪いまであるのだが。
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