13.狂気の色

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別れ話を切り出さなければいけないのに――。 しかし太田の耳に、私の声は聞こえていないようだった。必死に抗ってはみたが、それは呆気なく力でねじ込まれた。私の意思に関係なく、彼は荒々しく、噛みつくように口づけして、私の体のあちこちに痛みと痕を残していった。それは初めて彼に抱かれた時以上に激しく、私の唇からはうめき声がもれた。愛撫とは程遠いやり方で無理矢理に太田を受け入れさせられて、体中に残ったひどく不快な感触に吐き気がする思いだった。 太田は満足げな様子で、彼に苛まれてぐったりと力なく横たわる私の体を愛おしむような手つきで、優しくなぞるように撫でている。 「笹本が悪いんだよ。俺以外の男と会ったりするから」 頬を伝う涙がシーツを濡らす。ひんやりとした感触に頭の芯が冷える。 「どうすれば、俺だけを見てくれるようになるんだろうな」 私の涙をぬぐいながら太田は囁く。 「そんなに泣かないでくれよ。ただ笹本には、俺だけを見ていてほしいだけなんだ。そうすれば大事にする。とりあえず今日は帰る。明日仕事が終わったらまた会いに来るから、きっと部屋にいてくれよ。じゃあな、おやすみ」 太田は私の体に毛布をかけて立ち上がった。 私はベッドに横たわったまま、太田の足音が遠ざかって行くのを聞いていた。 玄関のドアが開き、閉められた後に続いて、ドアポストに鍵が落とされたと思われる金属音が響いた。 本当に太田と別れることができるのだろうか――。 私は不安と恐怖にぞっとして、毛布の中で体を丸めた。
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