13.狂気の色

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翌朝、鏡に写った自分の顔を見て、私は愕然とした。瞼が腫れぼったい。目も赤い。 会社、行きたくないな――。 そうは思うが仕事が待っている。出張の打ち合わせもあるだろう。 少しでもマシに見えるようにと瞼を冷やし、いつもは流している前髪をすとんと下ろして、重い体を引きずるようにしながら出社した。 「おはようございます」 朝の挨拶をしつつ自分の席に向かおうとした時、太田も同じようなタイミングで出社してきた。 「笹本さん、おはよう」 昨夜のことなどなんでもなかったかのように、爽やかな顔をしている。 私は目を伏せ小声で挨拶を返した。 「おはようございます」 自分の席につく時に拓真と目が合った。その顔を見たら涙がこみ上げてきそうになり、それをごまかすために頭を下げながら挨拶する。 「北川さん、おはようございます」 「おはようございます。今日はいい天気ですね」 拓真の穏やかな声に少しだけ心が落ち着く。 課長の田中が出社してきた。課の面々に挨拶した後、彼は私と拓真を呼ぶ。 「これから少し時間いいかな?出張のことで打ち合わせしたいんだけど」 私と拓真はそれぞれに、田中に頷いた。 「はい。分かりました」 「じゃあ、第一会議室に行こうか」 椅子に座る暇もなく廊下に向かう田中の後を追うようにして、私と拓真はオフィスを出た。 当日のスケジュールや支社での動きを確認した後、田中は少しだけ申し訳ないような顔をして言った。 「あとね。支社長からのお誘いでさ。せっかくだから、夜、支社の皆んなと懇親会なんてどうかって言うんだ。そうなると、日帰りは難しいから向こうで一泊することになるんだけど、二人とも都合はどう?もし難しいなら丁重に断っておくけど」
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