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「あの後帰ってから、ちゃんと寝たのか?目が赤いようだし、なんだか瞼も少し腫れているような気がするんだけど……」
私は慌てて顔を伏せて、なんとかひねり出した理由を口にする。
「えぇと、これは、あれだと思う。寝る前にお水をたくさん飲んじゃったからなのと、ちょっと動画とか見ちゃって、たぶんそれで……」
拓真は疑わしそうに、しかし心配そうな顔を見せる。
「本当にそうならいいんだけど……。何かあったら、いつでも俺に話してくれよ。絶対に力になるからね」
何かを察しているのだろうかと、拓真の言葉にどきりとした。しかし彼に心配をかけるわけにはいかないと、私は明るい表情を作った。
「ありがとう。その時はそうさせてもらうね。とりあえず、出張の日はよろしくね」
私の笑顔を拓真はしばらく疑わしそうな目で見ていたが、諦めたようにふっとため息をついた。
「今の状態では、甘えてはもらえないのかな」
「え……?」
「いや。碧ちゃんにとっての俺はまだ彼氏じゃない。ただの同僚でしかないから、甘えていいよって言っても、君は甘えてはくれないんだろうなって思ってさ。分かってはいても、ちょっと寂しいな」
そんな風に優しい声で言われたら、今すぐすべてを打ち明けて彼に縋りつきたくなってしまう。でも、それはできない。気持ちはすでに拓真にあるとは言え、また、そのことを彼も知ってはいるけれど、私は本当の意味での彼の彼女というわけではない。だから甘えたい気持ちにブレーキをかけて、拓真に言葉を返すことはしないまま、ただ微笑んだ。
「そろそろ戻りましょ」
私は彼を促して会議室を出て、オフィスに足を向けた。
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