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「それは今もだけど、それってあんまり甘くないタイプだろ?今の碧ちゃんが好きなものが何なのかを知りたいんだ。だから手始めに、そのチョコ食べさせて」
そう言うと、拓真は口を開けた。困惑している私を急かす。
「ほら早く」
「もう、しょうがないなぁ……」
口では文句を言いながらも、どきどきした。チョコの包み紙を開いて、彼の口の中にそっとチョコを入れてあげる。
その瞬間、拓真は私の指までもぱくりと食べてしまった。
「ちょっと……!」
焦る私に悪戯っぽい目を向けながら、彼は私の指から口を離して笑った。
「おいしそうだったから、一緒に食べてしまった。あはは」
「あはは、って……」
頬が熱い。今の私は絶対に顔が真っ赤になっているはずだ。唇を尖らせて私は文句を言った。
「拓真君って、こんなヒトだったっけ」
「さて、どうだったかな」
拓真はそう言ってくすくす笑いながら、私を見る。
目が合って、鼓動はますます大きく鳴る。
「あぁ、なんだか眠くなってきたな。碧ちゃん、向こうに着く頃起こしてくれる?」
「え?」
さっき私に、眠かったら眠っていいよなんて言ったのに――。
しかし拓真のどこか幸せそうにも見える顔に、文句を言う気は失せる。
彼は私の手の上に自分の手を重ねたままで目を閉じた。
「もう……」
苦笑しながらも、彼の手の温かさに心が安らいだ。好きな人と一緒にいるということは、本当ならこんなにも安心できて幸せなことのはずだ。そのことに改めて気づき、知ってしまった今、もうどうあっても太田の傍にはいられない。私の居場所は拓真の傍だ。この幸福な時間を、早く延々と続くものに変えたいと切ないほどに思う。
私はその日を想像しながら、眠る拓真の腕にそっと頭を預けた。
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