399人が本棚に入れています
本棚に追加
支社での指導などというと仰々しいが、実際には、一緒に仕事を進めながら教えるというOJTスタイルだった。やはり直接のやりとりは教える方も聞く方も分かりやすい。こんなことなら、もっと早く出向いて来ればよかったと思う。
その間、拓真はなぜか時田に連れられて、外回りに同行させられていた。田中の話を聞いた時には、支社の業務の流れを見るのが目的だと思っていたが、実は別の目的でもあったのだろうかと不思議に思う。いずれにしても、部長に何か考えがあってのことなのだろうと、あまり深くは考えないようにした。
その夜はすでに聞いていた通り、懇親会の席が設けられた。
これまで他店に来た事がなかった私は、その土地ならではの食べ物や、周りで聞こえる方言のような言葉に楽しい気分になっていた。拓真も時田と支社の営業の男性の間に挟まれて、楽しそうに話をしている。
支社の皆んなと様々な話題で盛り上がりつつ、これを機に今後の電話やメールでのやり取りがこれまで以上に円滑になりそうだと、私は今回の出張の成果に満足していた。
「さて、そろそろお開きとしようか。明日、二人は夕方までこっちにいるんだったよね?」
時田が私に訊ねる。
「はい、その予定です。直帰でいいって言われているので、ぎりぎりまでお手伝いできればいいなと思ってます。なので、皆さん、明日もどうぞよろしくお願いします」
私に倣うように拓真も頭を下げているのが見えた。
「こちらこそ。よろしくね」
支社の皆んなが口々に言う声にほっとして、私と拓真は顔を見合わせて笑った。
最初のコメントを投稿しよう!