14.つかの間の平穏

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ぞろぞろと支社の面々と一緒に店を出たところで、時田が私と拓真に訊ねる。 「ここからホテルまでは歩いて十五分くらいだけど、場所覚えてるか?途中まで一緒に行った方がいいか?」 拓真は丁寧に時田の申し出を断る。 「いえ、ちゃんと覚えてますので大丈夫です。お気遣いありがとうございます」 「そうか。じゃあ、また明日な」 「はい。お疲れ様でした」 私は拓真と並んで、帰って行く皆んなを見送った。彼らの姿が見えなくなってから、ふうっと息をつく。 「楽しかったけど、なかなか疲れるね。出張って」 「まぁね。でも、来て良かったよ。時田支社長っていい人だよね」 「そうよ。私、経理の時ずいぶんとお世話になったんだ。仕事はシビアだったけどね。さて、私たちも帰りましょうか。ホテルって、あっちの方だったよね」 そう言って歩き出した私を、拓真は引き留めた。 「待って、そっちじゃないよ。こっち」 「え。あれ?」 「碧ちゃんって、方向音痴だったっけ?」 くすくすと笑う拓真に、私は唇を尖らせて言い訳する。 「初めての街だし、お酒も入ってるから、ちょっと間違えただけだもん」 「だもん、って……」 拓真がぷっと吹き出した。 「碧ちゃん、いくらなんでも気を抜きすぎでしょ。もしかしたら、まだその辺に支社の人がいるかもしれないのに」 拓真に言われて私は焦る。 「そ、そうだよね。ごめんなさい。やだなぁ、そんなに飲んでいないはずなんだけど」 「疲れてるんだろ。とりあえずホテルに向かおう」 そう言って、拓真が私の手に触れる。 「拓真君、ちょっと、この手……」 どぎまぎして拓真から離れようとしたが、それよりも早く彼の手が私の手を握った。
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