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15.気づけばそこは
部屋に入った私は早速、持参していた下着や部屋着をカバンの中から取り出そうとして気づく。
「なんだ。浴衣があるじゃない」
バスルームのドアを開ければそこには、フェイスタオルとバスタオルもちゃんと用意されている。
バスタブに湯を張りながら、私はシャワーを浴びた。シャンプーを取ろうと手を伸ばした時に、壁面に取り付けられている鏡に上半身が写った。見慣れた自分の体だというのにはっとする。首にはまだ赤みが残っていた。今日着ていたブラウスはフリルの着いた立ち襟だから、髪をおろしてしまえば他人に気づかれはしなかったはずだが、こうして見るとやっぱり分かってしまう。ふと目を落として見た体には、紫がかったあざや噛み痕と分かる痕が点々と散っていた。
「こんなの、絶対に違う……」
自分の体をいたわるように洗いながら、哀しい気持ちに囚われた。
バスルームを出てベッドに足を向けた時、充電中の携帯が鳴った。
どきりとして足が止まった。恐る恐る覗き込んだ画面には、太田の名前が表示されていた。出ようか出るまいか躊躇しているうちに、音が鳴り止んだ。その隙に着信履歴を見ると、懇親会が終わった辺りの時間から、太田の名前ばかりが並んでいた。
一気に重い気分になって、ベッドに腰を下ろした。その途端に再び着信音が鳴った。見なくても分かる。太田からに決まっている。このまま無視を続けようかと思った。私は今、離れた場所にいる。電話に出ないからと言って、太田がわざわざここまでやって来ることは、いくらなんでもないだろう。
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