15.気づけばそこは

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だけど、帰ってからは――? 宣言するように別れの意思を伝えはしたが、結局は彼とは平行線のままだ。この前のように、待ち伏せでもして部屋までやって来ることが容易に想像できた。その時に彼をうまくかわせる自信はない。もしもこの前以上にひどいことをされたら?男の人の力には到底かなわないのだ。私はごくりと生唾を飲み込み、震える手で携帯を取り上げた。 「もしもし……?」 電話に出なかった理由を冷えた声で追及されるかと思ったが、案に相違して、太田の声は恐いくらいに優しかった。 ―― あぁ、笹本。やっと電話に出た。何かあったのかと思って心配だったんだ。 張り付きそうになる声を励ましながら、私は言う。 「私、別れると言ったはずですけど……」 ―― 俺はうんとは言っていないよ。 太田はやけに優しい声で言う。 その声に恐怖心を煽られる。 ―― 明日の夜に戻って来るんだったよな。 「えぇ、でも会いませんから……」 私は携帯をぎゅっと握りしめながら。固い声で言った。 すると、ひと呼吸ほどの間があった後、太田はため息まじりに言う。 ―― 本気なのか?でも俺は別れるつもりはない。 「何度も言ったように、私はもう、太田さんとは付き合えません」 どうしたら分かってもらえるんだろうと、苦しい声で言う私に、太田は探るように訊いてきた。 ―― なぁ、北川と何かあった? 「何もありませんよ。仕事で来てるんですから」 私は即座に否定した。新幹線の中でのことや、懇親会後に手をつないでホテルまで歩いたこと、ますます拓真に心を寄せるようになっていること……。それらが「何かあった」ということになるのなら、余計に太田になど言うわけがない。 ―― ふぅん……。
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