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「何があった?」
私はすぐさま笑顔を貼り付け、首を横に振った。やっぱり拓真に迷惑とこれ以上の心配はかけられない。
「ごめんなさい、なんでもないの。明日のことで、聞き忘れたことがあったって思って。だけどよく考えてみたら、明日の朝でも大丈夫な話だったから……。ごめんね、ドア、開けさせちゃって。おやすみなさい」
作り笑いのまま自分の部屋に戻ろうとした私を、拓真の声が引き留めた。
「待って」
肩越しに見た拓真は、ドアを開けたまま私に向かって手を伸ばしていた。
「こっちにおいで」
躊躇する私に拓真は優しい苦笑を見せる。
「おいで」
もう一度かけられたその声に引っ張られるように、私の足はふらりと拓真の方に向いた。
彼は私の手を取ると、自分の方へ引き寄せた。そのまま部屋の内側に入り、ドアを閉める。
「いったいどうしたの?」
拓真は私をそっと腕の中に入れて、背中を撫でてくれた。彼から漂うシャンプーらしき匂いとほかほかとした温もりに、様々な不安が和らぐような気がした。
「体、冷えてるじゃないか。ちゃんとお風呂に入った?ここで入っていきなよ」
「そ、そんなわけには……」
私は慌てて拓真から身を離した。
「大丈夫よ。自分の部屋で入り直すから」
「そう言ってそのまま寝るつもりなんだろ?風邪なんか引いたら仕事に差し支えるよ。それに」
拓真は私の頬を手のひらで包み込むようにして撫でる。
「泣きそうな顔をしていたよ。本当は俺に何か話したいことがあるんじゃないの?話せば少しは気持ちが楽になるかもしれないよ?とにかくまずは風呂に入って、しっかりと温まっておいで。タオルはそこにあるのを使って」
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