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「あの、でも……」
ぐずぐずしている私に、拓真はにやりと笑った。
「なんなら俺が風呂に入れてあげるけど?」
「い、いえっ、一人で大丈夫!」
瞬時にして頬がカッと熱くなり、私は拓真から逃げるようにバスルームのドアを開けて中に足を踏み入れた。ドアを閉めてからはっとする。
しまった、乗せられた……。
しかし、拓真の前では素直に振舞えなかったけれど、本心では彼の気遣いが嬉しかった。追い返されなくて良かったと思う。彼ヘの返事を保留にしているくせに、こんな風に甘えるのはずるいことだと分かっている。けれどせめて今夜だけ、少しだけ、とその罪悪感をなだめすかしながら、私はお湯を張ったバスタブに体を沈めた。
湯船に浸かりすっかり温まった私は、水滴を拭った肌に浴衣を再び身に着けた。髪の乱れを直そうとしてのぞいた鏡に自分の姿が写り、思わず目をそらす。首にまだ残る痕は、襟をしっかりと押さえていないと見えそうになる。拓真には知られたくない、やはりここに来るべきではなかったと後悔し始める。私は襟元をかき合わせながらバスルームを出た。
「ありがとう。私、戻るね。お風呂に入りに来たみたいになっちゃって、ごめんね。ご迷惑をおかけしました……」
私は首をすくめながら早口で言い、そそくさとドアノブに手をかけた。しかし拓真に引き止められた。
「待って。碧ちゃんの話を聞かせてほしい」
私は彼に背中を向けたまま答えた。
「それはさっきも言った通り、明日でもよかった話だから……」
今、彼の顔を見てしまったら、きっとすべてを打ち明けたくなってしまうーー。
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