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「これって絞められた痕?それに、他にもたくさんあるこのあざみたいな痕は……」
拓真の声が微かに震えている。
「キスマークなんて、生易しいものじゃないだろ。こっちは噛まれた痕?何か所もあるじゃないか。これ、まさか他にも……?」
拓真は私の手をやんわりと解き、肌に残る噛み痕にも指で触れる。
「痛かっただろう……」
彼の言葉が心に染み入る。
拓真は浴衣を私に元通りに着せ掛けて、隣に腰をおろした。
「今ここにいるのは君と俺だけだ。絶対に悪いようにはしない。だから正直に話してくれないか」
彼は両手で私の手を包み込んだ。その手にきゅっと力が込もる。
拓真の言葉に心は揺れたが、やはり自力で何とかすべきなのではないのかと思う。
その迷いを察した拓真が力強く言う。
「碧ちゃんが辛い思いをしているんなら助けたい。それに、俺を巻き込みたくないと思っているんだとしたら、それは違う。俺が碧ちゃんの問題に巻き込まれたいんだよ」
おずおずと見上げた彼は、優しいけれど真剣な目をしていた。
助けてと言ってもいいのだろうか――。
彼の目を見つめ返したら、これまで一人で抱えていた様々な思いがこみ上げて涙となって流れた。それがきっかけとなった。
「太田さんとの別れ話がうまくいっていないことは、もう分かってるかもしれないけど……」
私は太田との間にあったこれまでの出来事を、時折つかえながら話し出した。
私の話を聞き終えた拓真の眉間には、深いしわが刻まれていた。
「辛いことを無理に言わせることになってしまって悪かった。だけど話してくれてありがとう。もっと早く気づいてあげられたら良かった……」
拓真は悔やむような顔をして、私の手を握りしめた。
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