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16.相談
出張二日目、私も拓真もそれぞれ順調に支社での役目を終えて、夕方一緒に帰路についた。新幹線の座席に落ち着くと、早速拓真が心配そうに訊ねる。
「太田さんから連絡は入ってた?」
「今朝とお昼ごろに、メッセージがたくさん入ってた。何時に帰って来るのかって。適当に返信はしておいたけど……。今夜会いに行くって、やっぱり書いてあったわ」
「そうか……。とりあえず、向こうに着いたら、真っすぐリッコに行くってことでいいんだね?」
「そうだけど、疲れているでしょう?私一人でも大丈夫だから、拓真君は帰っても大丈夫だよ」
「そんなわけにはいかないよ。もしもだめだってことになったら、困るでしょ?仮にホテルってことになっても、俺も一緒に手伝えるから。本当はもう諦めて、真っすぐうちに来てほしいんだけどね……」
ため息をつく拓真に私は首をすくめ、それから礼を言う。
「ごめんね。えっと、ありがとう」
「気にしないで。ひとまず落ち着く先が決まったら、この後のことも一緒に考えたいしね。ところでさ……」
拓真の瞳が柔らかく緩んだかと思ったら、私の手を握った。
「向こうに着くまでの間だけでいいいから、こうしていて」
周りの耳があるからなのは分かっていたが、顔の近くで囁くように言われてどきりとする。
「……うん」
私はためらいながら彼の手を握り返した。昨夜、彼とまた恋人同士に戻ることになりはしたが、太田のことが心に引っ掛かっていて、自分の方からはまだ素直に拓真に触れられないでいる。
早くこの状況を解決して、憂いなく自分の方から彼の手を求めたいーー。
駅に到着するまでの間、私はそんなことを思いながらずっと拓真と手をつないだままでいた。
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