395人が本棚に入れています
本棚に追加
「そうでしたか。お疲れ様でした」
笑い返す私に太田はまぶしそうな目を向けた。
「何が食べたい?」
「そうですねぇ。どちらかと言えば、今日は和食の気分かな」
「じゃあ、俺の知ってる店でもいいかな?」
「はい。もちろんです」
私が頷くのを見て、太田はゆっくりと歩き出した。
「ここからそんなに遠くないんだ。もしかしたら、笹本も知ってるかもな」
「この辺のお店ですか?どこだろう」
私は首を傾げつつ太田の後を着いて行った。
彼の言葉通り、店は会社から近い場所にあってものの数分で到着した。
太田が足を止めて振り返る。
「ここなんだけど、知ってた?」
「いえ、初めて知りました」
「居酒屋なんだけど、ここの食べ物がおいしいんだ」
「そうなんですね。太田さん、詳しいんですね」
「そういうわけでもないけど……」
太田は照れたように笑った。
「……じゃあ、ここでいい?」
「はい、構いません。その美味しいご飯、食べてみたいです」
平日だったから、私はノンアルコールビールを頼んで主に食事を楽しんだが、太田は焼酎の水割りを二杯ほど口にした。
店を出た私たちは近くのタクシー乗り場まで行き、ちょうど待機中だったタクシーに一緒に乗った。帰る方向が同じであることは、私が経理課だった時から互いに知っている。
タクシーが走り出して間もなく、突然太田が言った。
「……俺さ、笹本のこと好きなんだよな。俺と付き合わないか?」
最初のコメントを投稿しよう!