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「今、なんて?」
あまりにも唐突だったから、聞き間違えたのかと思った。
私のことを、好き――?
言葉の意味を理解するまで、少し時間がかかった。でもそれは仕方がない。なぜなら、太田からそんな素振りを見せられたことが今まで一度もなかったからだ。だから、それなのにどうしてと思ったのだったが、すぐにあることに思い至る。
酔っぱらって冗談を言っているだけなんだ――。
太田の発言の原因にひとり納得し、私は彼に向かって苦笑を紛れ込ませながら言った。
「そんな冗談を言うなんて、太田さん、酔ってますよね」
私の言葉を耳にした太田はため息をつき、小さく笑い声をもらす。
「酔うっていう程、酔ってるつもりはないんだけど。まぁ、酒を飲んだ後でこんなことを言っても、信じてもらえるわけがないよな」
「そうですよ。冗談にしか聞こえませんよ」
太田が笑ったから、私もくすりと笑う。この話はここで終わりだろうと思った。それなのに。
「……冗談じゃないって言ったら、どうする?」
太田はそんなことを言う。街明かりに照らし出されたその顔は真剣だった。
初めて見る太田の表情に困惑して、私は目を逸らした。
「どうする、って……」
私の様子を見て、太田は苦笑を漏らしながら前に向き直った。
「こういうことは、素面で言わないとだめだって分かってたのに、ちょっと焦ってしまったみたいだ。勢いをつけるために飲んだのが裏目に出たな。……ところでさ。俺、笹本の連絡先、聞いたことがなかったよな」
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