2.馴染みの店と飲み友達と

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2.馴染みの店と飲み友達と

その翌週金曜の夜、とある洋風居酒屋のカウンター席に私は一人で座っていた。 二十代初めの頃は、一人で飲みに出かけることなど考えたこともなかった。けれどこの店にだけは一人でも来ることができるし、今では一人で来ていても、のんびりと寛げる居心地のいい空間になっている。 店の名前は「リッコ」。マスターの奥さん「梨都子」の名前に由来していることは、ここに初めて来た時に知った。 私がこの店の常連になったきっかけは、ここを指定してきた友達本人が、訳あって急に来られなくなったことにあった。一杯だけ頂いた後、そのまま一人で飲むのは寂しいと思い帰り支度を始めていた私を引き留めたのは、その時その場にいた梨都子だった。 話し上手、聞き上手な彼女と、その夫であるマスターとは、あっという間に仲良くなった。それからは時々、今夜のようにふらりと一人で店にやって来ては、軽く一杯程度のお酒を飲みながら食事をするのが当たり前となっている。 飲みなれたレモンサワーをいつものように注文する私に、マスターの池上が告げる。 「今夜は後で梨都子が来るよ」 「そうなんですね。会うの、久しぶりかも」 「さっき梨都子にメッセージ送ったら、碧ちゃんが帰るって言っても引き留めておいて、だってさ」 「顔を見ないで帰るなんてこと、しませんよ」 くすっと笑う私に、池上がふと私の手元を見て訊ねる。 「ところでグラス、空いてるみたいだけど、どうする?何かお酒作ろうか?」
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