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笹本碧、二十六才。私は印刷会社の総務課で働いている。この春、隣の経理課から異動になった。ちなみに総務課も経理課も管理部門の中にあり、フロアも同じだ。
「笹本さん、今日、事務用品なんかの在庫チェックするんだよね。バインダーファイルも頼んどいてくれる?あとは経理にも声掛けよろしく」
「分かりました」
私は課長の田中に返事をして、キャビネットが並ぶフロアの端っこに向かった。管理部で使う事務用品の類は、この棚の中に一通り揃えてあるのだ。不足している物がないか確かめてから経理課へ向かう。田中に言われたように、経理課でも必要とするものがないか確認を取るために、年の離れた同期に声をかけた。
「お疲れ様です。太田さん、すみません。今、事務用品の在庫チェックをしてるんですが、経理課で何か必要なものがあれば教えてもらえますか?今日中でいいので」
太田は私より四才年上だ。私が新卒で入社した春に転職してきた。年齢は違うが同期ということで仲良くしていた。私が総務課に異動してからも、席は同じフロアにあるし仕事上でも何かと接点があったから、彼とは相変わらず仲のいい同僚同士だった。
「分かった。少し時間もらえる?」
「もちろん。では、よろしくお願いします」
「あっ、待って」
引き留める太田の声に、席に引き返そうとしていた私は足を止めた。
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