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今思い返してみれば、ずいぶんと恵まれた人生だった。
「死ぬな……。」
わたしが生まれたのは、それなりに裕福で、それなりに地位のあった伯爵家。
可もなく不可もなく、貴族社会でもうまくやっていた。
武の家系に生まれたわたしは当然のように騎士を志し、十三で王立学園の騎士養成科に入学した。
一応成績は座学でも実技でもトップ、女のくせにだとか難癖はつけられたけど、まぁそれもうまく立ち回って終わらせた。
誤算は、王国の騎士に半強制的に叙任されたことだろうか。
卒業後は実家の方で生きようと思っていたのだけど、王都に残らざるを得なくなった。
「生きろ!」
王都の巡回をしているうちにアイドルのようにまつりあげられたのも誤算だった。
特に、男装の麗人だとか女性から騒がれたのは予想外だった。
おかげで民衆の理想の偶像を演じなくてはならなくなり、かなりの精神的負荷がかかった。
騎士叙任から数年が経過し、王家の騎士にされた。これまた、半強制的に。
それから半年ほど王宮の警備をしていたが、夏の王宮騎士武術大会でごぼう抜きで優勝した途端、王太子の専属騎士に任命された。半強制的に。
……わたしの人生、騎士になってからは『半強制的』が多いな。
わたしの一つ上の歳で、この世のものとは思えないほど麗しい容姿に柔らかな物腰、王国随一の頭脳、非の打ちどころのない人物。
それが、王太子殿下だった。
未だ婚約者がいないのが不思議だったが、幼いころに出会った少女が忘れられない、という噂を耳にして妙に納得した。
時折寂しげな瞳をするのは、それが原因だったのだろう。
ずっと探していらっしゃるそうだが、見つからなかったらしい。
わたしが学園に入学してから少しした頃、捜索を打ち切ったとも耳にした。
「ペルペトゥア、目を開けて……。」
わたしが殿下に付き添っているうちに、王太子付きの女騎士と王太子は恋仲、という事実無根の噂が立つようになった。
異性であるというのにずっとそばに置いていたことが原因らしい。
殿下にも国王陛下にも進言したが、私が専属騎士から外されることはついぞなかった。
それどころか、ならばそれを事実にしてしまえばよい、そろそろ結婚しなければならないし、と半強制的に婚約者にされた。
ここまでくると、もう諦めもつくというものだ。
王太子殿下とのありもしない恋愛話をでっちあげられ、幼少期からご執心だったご令嬢も私だったということにされた。
ロマンチストな国民性から、絶大な支持を受けた婚約となってしまった。
しかし、それが面白くなかったのだろう。
どこぞの貴族が、私の食事に毒を盛ってきたのだ。
一度目は未遂、実行犯の料理人とその上の貴族は捕らえたが、とかげの尻尾切で黒幕まではたどり着けなかった。
警備は当然厳しくなったが、結局それをかいくぐった給仕から二度目の毒が盛られ―――。
「死ぬな!」
「レオンシオ様……。」
王太子殿下―――レオンシオ様の顔は、ぼやけた視界には映らない。
力の入らない身体をレオンシオ様に預け、にっこりと微笑んで見せる。
―――わたしは、笑えているだろうか。
苦痛に顔が歪んでいたりはしないだろうか。
「絶対に死ぬな。もうすぐ医師が来る。」
まぶたが、ゆっくりと落ちてきた。身体の力が抜けてゆくのを感じる。
「ペルペトゥア―――ペティ。」
あぁ、そうか。
そういうことだったのか。
「レオン……。」
幼いころに出会ったあなたに、思わず『天使様』と呼び掛けてしまったこともあった。
―――最後くらい、いいだろう。
端から血が伝う口を、ゆっくりと動かす。
「お慕い……申し上げて、おりました……。」
「私もだ、愛しているよ。だから―――」
愛しいあなたを残して逝くことを、お許しください。
「―――ぺティ⁉誰か!速く!」
頬を、誰のものともつかぬ熱い雫が流れてゆく。
「死ぬなぁ~っ‼」
残されるあなたに、幸多き出会いが訪れますように。
◇◇◇◇◇
エターナリア歴1317年七月七日午後八時、夜空を眩く輝く星が流れた。
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