1.幼馴染が鬼上司

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1.幼馴染が鬼上司

 何とかアキくんの腕から解放されたものの、『心配だから』と言って自宅アパート前まで送ってもらった。    これまで会社では『初対面』みたいな対応をされていたし、アキくんは子供の頃と打って変わって『鬼上司』なんて呼ばれていたから、ここまで優しく甘やかされると反応に戸惑ってしまう。  これは、都合の良い夢なんじゃないかと。    私の歓迎会は金曜夜に行われたので、今日は土曜日だった。自宅に戻った私はひとまずベッドにダイブして、見慣れた天井をぼーっと眺めた。  転職してからの2週間は、怒涛の日々で。  まさかそこでアキくんに再会できると思っていなかったし、挙げ句の果てには自ら逆プロポーズしてしまうなんて……。そんな最近の出来事を思い返していた。 *** ーー今から2週間前 「初めまして! 同日入社の春田駿です。宜しくお願いします!」 「春田さん、初めまして。濱本麗です。宜しくお願いします」  春田さんに声をかけられたのは、入社オリエンテーションを受けるために会議室の椅子に座った時だった。  ここは、多数のランジェリーブランドを中心にインナーウェアを展開している『リュミエールホールディングス』。  私はその中でもずっと憧れていた『クルール』と言うブランドの広報・PR担当として、運良く入社することができた。  リュミエールでは、スポーツをする時に着用する男性向けインナーなども扱っており、男性社員も意外と多い。今回春田さんが同期入社したことも、何ら違和感は無かった。 「春田さんはどちらの部署なんですか?」 「俺はEコマース事業部ですよ。濱本さんはどちらの部署ですか?」 「私は広報・マーケティング部です。『クルール』のPR担当で採用されました」 「そうなんですね! 噂の『鬼上司』がいる部署じゃないですか。嫌なことがあったら、俺がいつでも相談乗りますよ?」
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