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アイさんは、アキくんの腕をガバッと掴んだ。明らかに二人の距離感が近いことが分かり、ドクドクと早鐘を打つ。
「あー、あの噂って本当だったんだな。宝来部長が片桐アイと付き合ってたってやつ」
「……え?」
私は近くでぼそっと呟いたスタッフの声に、つい反応してしまう。寝耳に水、とはこのことだ。
「週刊誌に載った時も、宝来部長は一般人だから名前は伏せられてましたけど。後ろ姿とか映ってましたもんね〜。いやー部長もモデルみたいだから、本当お似合いだな〜」
「そう、なんですね……」
(もしかして、アキくんの『忘れられない人』って、アイさんのこと……?)
昨日はあれほど体を重ねたというのに、アキくんが物凄く遠くに感じてしまう。私から見ても、二人はとてもお似合いで……それがまた虚しくなってくる。
宮園さんと言い、アイさんと言い、アキくんはどうしてこんなにも素敵な女性達を惹きつけられるんだろう。
「アイ、今回のブランドPRを担当している濱本さんを紹介するよ。濱本さん、こっち来て」
「あ、はい。クルールPR担当の濱本麗です。本日は急遽来てくださり、本当にありがとうございます」
「片桐アイです。宜しくね」
アイさんは「ふーん」と言いながら、上から下まで舐めるように私のことを見ている。まるで何かを見定めているようで、少しいたたまれない気持ちになった。
すると、アイさんは突然口を開く。
「本当はね、ランジェリーって露出度も高いし、事務所としても受ける仕事はかなり厳選しているんだけど……暁斗が困ってるって聞いて、一肌脱いじゃおうと思って。暁斗、後で何かお礼してくれる?」
「お礼って……謝礼はもちろん払うけど」
「暁斗ったら、相変わらず真面目なんだから。久しぶりに、二人でご飯でも行きましょう?」
アキくんはちらりとこちらに視線を向ける。恐らく、結婚したことを言おうか、私の様子を伺っているのかもしれない。
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