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でも、アキくんの『忘れられない人』がアイさんだとしたら……二人がどうして別れたのかは分からないけれど、邪魔してはいけない気がした。
「ご飯、良いですね! 部長、ぜひ今回のお礼にお願いします!」
「ほら、濱本さんもそう言ってることだし。ね?」
「そうか……分かった、後で連絡する」
「やった〜! 撮影、頑張っちゃうね!」
顔を綻ばせて、喜びを全面に出すアイさん。
自分から『お願いします』なんて言っておいて、チクリと胸が痛む。アキくんとも目を合わせられず、上から小さなため息だけが聞こえてきた。
いざ撮影が始まると、誰もがアイさんに釘付けになった。国内だけでなく海外でも活躍していることもあり、アイさんは中性的な顔立ちだ。
日本人女性がランジェリーモデルをすると『生々しい』と言われることもあるが、アイさんの場合は『芸術』の域に達していた。
(アイさんがクルールを着用すると、こんな感じになるのか……PRの仕方ももう少し変えた方が良さそう)
「あのアイがランジェリーモデルを引き受けるなんてね。これは凄く売れそうだわ」
「道重さん、やっぱりそう思われます? ブランドメッセージも少し変更したくて、後で相談に乗って頂きたいです」
「もちろんよ。クルールって元々若い子向けのブランドで始まって、うちが買収したタイミングで思い切りリブランディングしたじゃない? 今回アイを起用することで、『大人の女性向けブランド』として確固としたものになりそうね」
「はい、今まで買ったことがない女性達にも広まりそうです」
「今回の件でアイに感謝するとはいえ……濱本さん、宝来部長は逃しちゃダメよ?」
「え……?」
突然、アキくんの話を振られて驚き、道重さんの方を見る。結婚していることは言っていないし、一体どういう意味なんだろう?
もしかして、どこかから話が漏れてしまったのだろうか。
「なんとなく。二人は特別な関係なんじゃないかと思って」
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