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 僕はいつの間にか趣味になっていた、真夜中の散歩に出た。お父さんがいびきをかく頃を見計らって、服を着替えてもこもこのダウンジャケットを着て外に出る。お酒でくさい部屋から外に出て、ほわっと真っ白な息を吐く。  ドアの一枚向こうは、まるで違う世界だ。いつも僕が暮らしてるのとは違う、暗くて白くてきらきらで、とっても静かな世界。僕の大好きな夜の世界。雪が降ってればもっと最高で、今日は大粒の雪が降り続いていた。  裸の耳がきんって冷えて、ほっぺに触る空気は冷凍庫の中みたいに冷たい。氷みたいな冷たさが、僕の身体の上から下まで通り抜けると、僕は新しい気分になる。嫌なものが外へ全部押し出されて、つま先まで綺麗な銀色でいっぱいになる。どこまでも行ける気がする。雪の降る音しか聞こえない道路を辿って、疲れないままいつまでも歩ける気持ちになる。  車がすれ違うのがやっとな道は、真っ白な雪に覆われていた。誰かが通った足跡は真夜中の雪に隠れて、僕の足跡だけが後ろに続いていく。買ったばかりのノートに名前を書くような少し緊張した気持ちと、世界にひとりぼっちなちょっとした怖さと、それよりずーっと大きなわくわくした心で、僕は夜の散歩をする。  そこで、僕は自分のじゃない足跡を見つけた。それを追いかけると、やがて歩く街灯に追いついた。  灰色の棒の先に丸っこい明かりがついた街灯は、足元が二つに割れていた。その足で雪を踏み踏み、滑らないように歩いている。歩く度に頭の明かりが揺れるのがおかしくてくすくす笑うと、街灯は僕を振り向いた。 「やあ」  街灯に顔があるわけがないのに、僕には街灯が笑っているのが分かった。 「やあ」  同じ返事をすると、街灯は嬉しそうに頭を左右に振った。明りに載った雪がふわふわと零れ落ちた。 「今日も綺麗な雪の夜だね」 「うん。ねえ、どこに行ってるの」 「パーティーだよ」  街灯はちらっと道の向こうを見た。 「仲間が集まってね、パーティーをするんだ。間に合うかなあ」 「楽しそうだね。僕も行っていい?」 「うーん」  街灯は腕を組んでいるような気がした。 「きみじゃあ、ご馳走のテーブルに手が届かないかもしれないね」  確かにそうだと僕は街灯を見上げて納得した。真っ白な光が眩しくて、まるで大きな雪の塊のようにも見えた。 「さよなら」 「さよなら」  僕らは挨拶をして別れた。真っ直ぐ行って振り向くと、通り過ぎた角をえっちらおっちら曲がっていく街灯の姿があった。
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