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説明してください。
「体内に溢れる力を手先に向けて流し込むんだ。イメージを結んだ瞬間に外へ放て!」
長い銀髪をはためかせて、暴風の中に立っているのは背の高い美丈夫だ。陶器のように滑らかな肌に、アイスブルーの瞳。長い銀の睫毛が煌めいて美しい。
彼が今扱っているのは風魔法。
長身を覆うローブのバタバタとはためく音が騒がしい中、私は美しい横顔に見惚れながらも途方に暮れるのだった。
高校に入学し、新しい生活に浮かれながらも疲れた帰り道、私は交差点で信号待ちしていた。車道の側に佇んでいた私にバイクのライトが当たり、その車体が突っ込んで来たのは、ほんの一瞬の事だった。
次に目を開けた時、私の前にいたのは現実味のない美青年だった。鼻梁も細く高く、日本人の顔立ちではない。アニメやゲームキャラのコスプレイヤーならばファン層は世界規模な容姿だ。切れ長の眦はクールな印象なのに、薄い唇は桜色で甘さを帯びている。
完璧と言っても良い容姿が横たわった私の顔
を覗き込んでいるのだ。
「あ、あの‥。」
緊張で汗を全身の毛穴から吐き出しつつ、青年に声をかける。
「まだ少ない量ではあるが力は巡っているな。手を貸してみろ、お前にも見えるはずだから。」
銀髪イケメンはそういうと私の手首を取り手のひらを上へ向けさせた。湯気のような白っぽい物が立ち上っている。
「これはお前から出ている魔力だ。属性という枠を持ち、技という形を与えることで我々魔導士の道具となる。」
そう言い切った表情は真剣で、疑うしかない内容なのに否定したい思いは言葉にならない。
「この時を今か今かと待ち侘びていた。通常であれば5、6歳までには流れるはずの力であるはずなのに、今のお前は15歳?か?いくら何でも遅すぎる。師匠の子と言えども能力は別物だと諦めていた所だ。」
随分と物言いにトゲが有り、こちらの心を遠慮なく抉ってくる。
「力の開花と同時に私の元へ転移する術式を組んでいた事で見逃さずに済んだものの、忘れて見捨てられても仕方がなかったな。」
勝手な物言いにイケメンへの好感度が急速に下がり不信感へと変わるのは早かった。
「勝手な事ばかり仰ってますが、この状況の説明からお願いできますか?」
私は今、仰向けに寝かされていて白い天井にある小ぶりなシャンデリアが目に入る。背中は床に付いているが、絨毯の毛足が暖かくさほど寝心地は悪くない。
「この私に説明をしろと?」
この状況で説明をしない方がどうかと思うのだが、銀髪イケメンは頭を左右に軽く振りながら仕方がないという様子で口を開いた。
「確かに何も知らないのであれば教える必要はあるな。全てを話すと長くなるので重要な事のみ伝えよう。」
全てを教えて貰えるわけでは無いことに落胆しながらも、聞き逃すまいと起き上がり体勢を整える。
「まぁ、ここでずっと話をするのも何だな。あちらで話をしよう。」
そう言いながら指差したその先にはローテーブルを挟んでソファーが置かれていた。1人掛けタイプと、2人掛けの長い物もある。
どちらへ座れば良いものかと考えていると、面倒とばかりに横抱きにされ長椅子の上にドサっと下ろされた。彼は1人掛けの方にゆったりと腰掛ける。
「は、運んでくれとは言っていません。」
何とも居たたまれずに口走ると、銀髪イケメンはこちらを見ようともせずに横顔を向き視線をどこかへ彼方へと見やるのであった。
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