祖父母が異世界の人だった件

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祖父母が異世界の人だった件

視界が戻ると先程とは違う部屋の様子が見えた。テーブルにはセッティングされたカトラリーが置かれている。 お仕着せを着た女性がワゴンを運び、執事の黒服を着た男性があっけに取られた顔でこちらを見ている。 「手間だったので私室からは転移の魔法を使った。屋敷は後に奴に案内させる。」 そう言って顎でクイッと示された黒服の男性は、足早に近づき片手を胸に当て軽く頭を下げた。 「私はこちらの屋敷で執事を務めておりますオリヴァーと申します。こちらの暮らしで何かありましたら遠慮なく仰ってくださいませ。」 「わ、私は水上沙世です。」 今の私はフィルドに抱えられたままで、挨拶もままならない。降ろしてとばかりに手で胸を押してみるがびくともせず、硬い胸筋を触ってしまっただけだった。 「フィルド、いい加減にお嬢様を降ろしたらどうだ?さっきから降りたそうにもがいているぞ。」 「ああ、そうだったのか。何だか動いているなとは思ったのだが。」 オリヴァーさんの指摘で私を床に下ろしたフィルドの耳は少し赤い。私が重たかったのだろうか? 「オリヴァーと俺は乳兄弟で、2人の間ではこうして気安く会話をしている。口煩い奴だが仕事は出来るから近くに置いている。」 「口煩いって、我儘ばっかり言うからだろう?うちの親だってフィルドは放っておくとサボるから甘やかすなって未だに言ってくるからな。」 「そういえばエマとゲンドーもようやくこちらの世界に戻れるな。そうだな、沙世がこちらにくれば、あの2人はしばらく休暇を出してやれる。」 今まで「お前」とばかり呼んでいたのが、いきなり「沙世」呼びになっている。おまけに恵麻と玄道とは祖父母の名前ではないか。 「聖女も魔王封印の際には呪いを得てしまったからな。呪いの干渉しづらい元の世界で一命は取り留めたが、沙予を産んだ後に命尽きてしまった。赤子とはいえ沙世も呪いは受けていたから、魔力の干渉が少ない世界でエマとゲンドーが解呪すべく尽力してくれていた。異世界の植物が解呪に使えると分かったのは朗報だったな。」 私の祖父母は古本屋さんを営んでいて、お店の棚には専門書が所狭しとならんでいた。どこの国の言葉かも分からない書物を見かける事もあったが、あれは祖父母が研究用に集めたていた本の数々だったのだろうか? 「解呪したのがわかってからは沙世が魔力に目覚める時をずっと待ち続けていた。目覚めなければ、あちらの世界で暮らし続けるのも悪くは無いと考えてはいたがな。」 「まぁ、立ち話も何だしとりあえず食事にしたらどうだ?」 オリヴァーさんの計らいで食卓へと着く。 前菜的な野菜はカットされていて原型は分からないが、素材が多く使われていて見た目にカラフルだ。 「話の続きだが、沙世は最強と謳われた魔力量を持つ師と聖女の力を持った母親から産まれている。この意味がわかるか?」 何となく凄いことは分かる。ハイブリッドだよね。 「魔力は体に流れていくものだ。その流れを受け止め操る事ができねば体は蝕まれる。力を滞らせた体は臓器を蝕まれ最後には死に至る。」 話の内容が生命の極限過ぎて、私はもう今までの生活には戻れないだろう事を覚悟した。 さようなら私のJK生活。 「魔力は遺伝が大きく関わると言われている。私は沙世を、師の子どもの成長を助けようと決めていた。師が私にしてくれたように。」 態度や物言いには問題ありそうだけど、やはり根は悪い人では無さそうだ。異世界の生活も頑張れそうな気がしてきた。 前向きに考えてみようと気持ちを奮い立たせた矢先、さっき食べたはずのキノコがまだ残っていることに気がついた。鶏肉っぽいものの付け合わせに付いているキノコが減っていない。気のせいかと思いまた食べてみる。5秒後、またキノコが復活した。これって?? 「あの、オリヴァーさん。食べても減らないのは普通なのでしょうか?」 オリヴァーさんの手が拳に握られフルフルしている。 「フィルド!お前なー‼︎嫌いだからって人の皿にキノコを転移するな!」 見ればフィルドの皿からは綺麗さっぱりキノコは消え失せ、残るは鶏肉一切れだった。 「だからお前を甘やかすなとか、この歳になっても言われるんだっ!」 さっきまで結構、真面目で良い話をしていたのに、その陰で嫌いな食べ物を人の皿に転移するなんて。フィルドへの信頼度はなかなか上りそうもないな。
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