1人が本棚に入れています
本棚に追加
2
衝撃で弾き飛ばされてコンクリートに激しく身体を打ちつけた。何が起きたのかわからず呆然としたが左足に猛烈な痛みが疾った。見るとパンツスーツの膝が破けて血が滲んでいる。
「いてて……」という声がして目をやると、若い男が太いタイヤの自転車を起こしていた。
萌子が睨みつけると「ごめんごめん」と男は悪びれる様子もなく、自転車にまたがりサーッとその場から遠ざかった。
「おいこら待て!」
近くのおじさんが声を荒らげてくれたが、男はあっという間に見えなくなった。
「大丈夫ですか?」
傍の女性の手を貸りて、よろよろと立ち上がった。幸いに骨は大丈夫そうだったが、ものすごい衝撃だった。トートバッグの中身も周囲に散乱し、親切な人が数人で拾って渡しにきてくれた。
「救急車呼びますか?」と女性が心配そうな目を向ける。
「ううん、大丈夫、ありがとうございます」
「警察に被害届出した方がいいですよ」
不安げに周りを囲む人に「大丈夫です、すみません」と頭を下げながら人の輪を抜けて、スーパーには寄らず足を引きずりながら、自宅のアパートに帰った。
シャワーを浴びようと服を脱ぐと、左の太ももから膝にかけて広い範囲が赤紫に腫れていた。熱を持ってズキズキしているので、しばらく水で冷やした。
シャワーを終えて部屋着に着替えるとソファに腰をおろした。残り一個のカップ麺をすすりながら、ほろ酔いワインを飲んだ。
散々な一日だったな……と、うとうとし始めたとき、新宿のおばさんの顔が浮かんだ。
「あなた、しばらく気をつけなさいね……」
唐突に言われて気分を害したけど、やはり気になる。
トートバッグから冊子を取り出して読み始めたが、読み終える前に眠ってしまった。
最初のコメントを投稿しよう!