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 靖国通りの細い路地を入ると、雑居ビルの一階に〈エタニティフレンズ〉の施設があった。新宿三丁目駅から歩いて五分くらいだ。無人の受付はおしゃれなIT企業のようなデザインで、タッチパネルで訪問先を呼び出した。  受付のソファで待っていると、事務所のドアが開いて事務服の女性が現れた。 「こちらへ」と案内されて後を着いて行くと、パーテイションで仕切られたブースがいくつかあり「どうぞ」と促されて椅子に座った。 「こちらを書いてお待ちください」  渡された用紙に名前や来訪のきっかけを記入していると、 「ようこそ」と、先日の赤いメガネの女性が現れた。 「よかったらどうぞ」と、冷えたペットボトルの水を萌子の前に置いて、円卓の向かいに女性も腰をおろした。 「それ書きました?」 「はい、簡単ですけど……」と、記入した用紙を渡した。 「浦部福子です、またお会いできて嬉しいわ」 「あ、はい、こちらこそ……」 「なにか、お悩みがあっていらしたのでしょ?」 「えっと、その前に、こちらはその、どういった施設か伺わせてください」 「そうですね。平たく言えば、現代の駆け込み寺です。それも心の」 「心の……」 「あなた、安藤さん、生きづらいと思ったことはないですか? 息苦しいというのか」 「それは……なくはないです」 「いまの時代はネットで簡単に他人を攻撃できる社会でしょ。それで心を病んで不幸な選択をしてしまう人も多い……そうした、心が救いを求めている人は、お顔に相が現れるの。先日の安藤さんがそうだったし、今も……」  萌子はドキッとした。不倫が拡散したのは、二人で腕組みして歩いていたところを、たまたま同僚に目撃されて、その写真がメッセンジャーアプリで出回ったのがきっかけだった。それ以降、会社で何度か嫌がらせに遭った。 「安藤さん、体調はどうかしら?」 「体調は問題ないですけど、今年大厄だと知って少し不安です……」  不倫で退職したことは伏せたが、自転車に轢かれて財布を無くしたことを話した。 「まあ、お怪我が大したことがなくて良かった。そのときエタニティの冊子を携帯していたでしょ?」 「はい、バッグに……」 「それはエタニティ神の御加護ですよ。天があなたをフレンズとして受け入れて、お守りくださったの。それがなければ、もっと酷い目にあっていたかもしれないですよ」  そう言われても否定はできなかった。 「お財布も、お金は残念だったけど戻ったのでしょ?」 「はい、幸いに」 「よかった。カードとか盗られたら大事でしたよ。あなたみたいに御加護を受けた例は他にもあって……」  浦部は不幸中の幸いのような具体例をいくつか話してくれた。 「ただね安藤さん。冊子の力はもう使い切ってしまったから、身代わりをお持ちになった方がいいわ。もちろんご判断はお任せしますけど」  浦部はタブレットを取り出すと画面を向けて、御札(おふだ)と青い数珠(じゅず)の効果を説明した。 「御札はお家を、お数珠はあなた自身をお守りくださるの」  二つで三万円だった。奇妙なことに、無くしたお金も三万円だ。  萌子が判断を迷っている間にも、浦部はエタニティの活動について、タブレットを見せながら説明してくれた。  結局、帰り際に受付で三万円を支払い、御札と数珠を買って帰った。  その足で西新宿の派遣会社に寄ったのだが、萌子はとても驚いた。
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