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 三ヶ月が過ぎ、派遣契約も更新になった。公私ともにすべてが順調で、生活も気持ちも安定していた。  自宅の本棚に全十巻の教典がずらりと並んでいる。四十八回ローンで百万円で購入したばかりだ。背表紙の金色の文字が神々(こうごう)しい。眺めているだけで気持ちが安らいだ。 「もっと頑張って働かないと」  萌子は自分を鼓舞した。元々貯金が少ないのに二十万円の掛け軸を買い、茶碗や湯飲みなどの日用品もすべてエタニティグッズに替えたため、貯金が底をついて消費者金融で金を借りていた。エタニティ神の抽象画も飾りたいが、これは高額で手が出なかった。  経済的にはギリギリだったが充実していた。それには二つ理由があった。  一つは浦部福子から役職を付与されたからだ。エタニティフレンズを広めて幸せな人を増やす役割だ。そのため、かつて自分がされたように、街頭で道ゆく人に声をかけて幸福の冊子を手渡す活動に励んでいた。さらに、初めて施設に訪れた人の接遇も任されるようになっていた。認められ、居場所があることが何より嬉しかった。  二つ目は、派遣先の男性と新しい恋が始まりそうな予感があることだ。その相手は澤村といい、三つ年上の営業主任で萌子はアシスタント。おのずと接する機会が多く、仕事ぶりと人柄に惹かれ始めていた。  ただ、澤村が独身なのは確証を得ていたが、もう二度と傷つきたくはない。たとえ叶わぬ恋だとしても、想える相手がいることが幸せで、これもすべてエタニティのお導きだ。萌子はそうした心持ちでいたのだが、ある日の営業同行の帰り道、澤村から食事に誘われた。 「今日は直帰できるし、軽くご飯でもどうですか? もし予定なければ」 「あ、はい、帰るだけなので……」  二つ返事でOKした。
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