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 仕事やネット番組の話で盛り上がり、あっと言う間に時間が過ぎた。店員が三杯目のサワーを置いてテーブルを離れると、澤村が声を落として言った。 「もしよかったら、今週末つき合って欲しいんだけど……」 「えっ……?」 「僕じつは副業してて、会社には内緒ね。その関連イベントが池袋であるんだ。そこに出来ればパートナー同伴で行きたくて。ていうか、正直に言えば同伴がマストなんだ」 「どうして、私なんですか? 他にお友達とか……」 「いや、安藤さんがいいんだ。安藤さん性格も穏やかでさりげない気配りも出来て、今までのアシスタントで一番相性がいいと思ってるし、すごく助かってる。面と向かっていうのは照れるけど……」  安藤さんがいいんだ。ストレートな言葉が胸に刺さって、萌子は泣きそうになった。 「ちょっとお化粧室行ってきます」と、ポーチを片手に席を離れた。  化粧室の個室でメイクを直して息を整えた。告白されたわけでもないのに、ドキドキが止まらない。相性がいいと言ってくれたのも素直に嬉しかった。  まだ何かが始まったわけじゃないけど、このまま上手くいけば母も安心するかも。二十代のときは「早くいい相手見つけなさい」と口すっぱく言っていたが、二年前に妹の夏帆(かほ)が子どもを産んでからは、一切言わなくなった。もう私の結婚は諦めているのかしら……。そう思うと寂しくて申し訳なくて、また、夏帆へのコンプレックスも(くすぶ)っていた。  澤村さんのお誘いもエタニティのお導きの気がする、いや、きっとそうに違いない。萌子はテーブルに戻ると快く誘いを受け、週末の約束をした。
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