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おれの従兄弟の虎次郎は、几帳面で、根気づよく、鉄の意志をもち、いちど決めたこと、いちどはじめたことは決して投げださず、あきらめずに、クレバーにパーフェクトにこなす。
おれの父が経営する会社の経理は、虎次郎がいなければ、書類の山が天井までとどき崩壊し、ドローイングしてしまうだろう。
ひとが、きづかないことをさりげなくこなし、新人のサポートも手厚く、そして、ハートフル。
虎次郎に育てられた人材は、またたくまに一人前になる。
虎次郎がいなければ、父の会社の経営はなりたたないと思っている。
おれは、丁寧に誠実に根気よく仕事をこなせない。
石のうえにも三年を虎次郎は、かるがるとこなし、そして結果をだす。
あきっぽく、せっかちなおれは、即席ヌードルをつくる時間すら石のうえにすわってられない。
虎次郎の根気づよさを見習えと、父とマザーになんどもいわれてきた。
いっしょに住むようになるまで、虎次郎を憎んでいた。
いっしょに住みだし、虎次郎のマザーよりも優しい心にふれ憎む気持ちはロストした。
虎次郎は、マイホームの雑用をすべてこなしてくれる。
衣食のすべてをととのえてくれる。
文句をいうことなく、にこやかに口角をあげ、家事を効率よくこなしていく。
けっして、家政婦のようで楽だとか、おれひとりだとゴミ屋敷になってしまうから、憎まなくなったわけではない、と強くはいえない。
すこしは、そのようなイービルなおもいがあったかもしれない。いや、きっとあった。
白い子猫がボールをおいまわすように家事をこなす虎次郎の愛くるしい姿をながめるのが好きだ。
キュートな小動物によく似た姿を見ていると、おれの心までがうきうきとし、ストレスがフリーになる。
虎次郎の細いくせ毛、青い血管が見えるほどのホワイトな頬。
ひとなつっこい犬のようにくるりとした目。
可愛らしいという言葉が、ぴったりの虎次郎だが、可愛らしいという言葉はタブーだ。
可愛らしいという言葉をヘイトしているのはわかる。
おれからすると可愛らしい容姿はとてもジェラシーなのだが。
いまもおれの革靴をならべるだけでなく、厚手の白い布巾で汚れをこすり、新聞紙をつめ靴箱に収納している。
カバンも丹念にみがき、痛みやすい箇所にはクリームをぬりつけてくれる。
靴下からスーツ、ワイシャツをクイックリーにあつめ、収納、洗濯してくれている。
その姿は愛くるしさと、ノーブルさをかねそなえている。
清らかな天使と熟練の執事が、虎次郎のなかにいる。
虎次郎の愛くるしい動きを見たいがために、おれはなまけているのかもしれない。
ナマケモノなのは否定しない。
そして、マザーのように小言をいわない虎次郎に、おれは甘えているのかもしれない。
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