虎と龍のおいしい関係

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龍太は、ぼくの従兄弟だ。 白いタンクトップと半ズボンだけを身につけ、だらしなくフローリングにねっころがり、文庫本を読みながら、ラジオの声にも耳をかたむけるという器用なことを、だらしない恰好でおこなっている。 イギリスであつらえたスーツとワイシャツは無造作にぬぎすて、靴下は黒い猫のようにまるく廊下のすみに転がっている。 牛のお尻の皮をたんねんになめしたカバンも、玄関の横の靴箱のうえにおかれたままで、イタリアの職人がつくりあげた革靴は、八の字におかれている。 龍太は、家のなかではだらしない。 けれども、家を一歩でると、背筋がのび、ぼくと龍太がつとめている会社の重要な案件や交渉をときに強引に、ときに華麗にまとめあげてきた優秀な人間にはやがわりする。 ローマ皇帝を現代風にアレンジした凛々しく精悍な顔。 タカの翼のようにスマートな眉毛と、マッチ棒1本はのせられるまつげ。 すずしげな目で見つめられると体温が0,3度さがりそうだ。 薄紅色の唇。リップをぬったようにみずみずしい唇はきらめいてる。 身長は190㎝あり、ライフセーバーのようにたくましい肌の色。 巨人に槍をなげつける銅像のようにバランスのよい筋肉。 龍太と一緒にあるいていると、チラチラと熱をもった視線をなげかけられている。 その視線には、きづいているとおもう。けれども、扇子で口元をかくす貴族のような上品さで、自然に優雅に熱い視線をうけながしている。 イタリア人を父にもつ龍太は、日本語とイタリア語だけでなく、英語はもちろん、フランス語を読み、話し、書くことができる。 広東語で日常会話はできるが、書くこと読むことはできないそうだ。日本語の漢字も苦手だといっていた。 外国のひとたちと胸をそらしながら、ケンカするように意見をぶつける威風堂々とした姿、話あいての肩をパンパンたたきながらジョークを飛ばす陽気な姿はすごいな、と思うとどうじに、ひとみしりかつ、日本語しか話せないぼくには一生できないことだと考える。 ぼくの容姿と正反対の龍太の容姿とコミュニケーション力には、嫉妬にちかい感情をもつことがある。
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