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高校二年生、夏。夏休み終了まであと三日となった今日、私は図書館で「試験勉強」の名目で自習室の一席を陣取っていた。けれど、積み上がった参考書や教科書は閉じられていて、代わりに分厚い小説をのんびり読んでいた。
(高校生でも読書感想文の宿題だしてくれりゃいいのにさ)
私は内心で悪態をつく。
ほかの高校は知らないけれど、少なくとも私の高校で読書感想文の宿題はなかった。中学の三年間、読書感想文の宿題で提出した作文で賞状を取り続けた私としては、得意分野だったから、高校でも読書感想文をがんばろうと思っていたのに、いざ夏休みになるとそんな宿題はないと担任から一刀両断されてしまった。
代わりに現代文の科目で出されたのはドリルの山と、漢字の暗記。ちなみにほかの国語系の科目や数学、理系科目の宿題も多分に漏れずドリルや問題集の山。私はそれらをぜんぶ、答えの丸写しで終わらせた。――ここだけの秘密だよ。
どんなにドリルや問題集をいくらこなしたって、どれだけ自分の身になるものかと疑い魔神の私は、それでも成績のため仕方なく宿題を終えた。でも漢字の暗記だけは特にしなかった。しなくても半分は答えられるだろうし、休み明け早々の試験勉強のために無駄にドリルをくり返すぐらいなら、その時間で小説を読む。その方がきっと勉強になる。現代文の勉強、そして将来の夢のためにも。
――あんた、本気で小説家になるつもり? お願いだからそんな夢みないで!
昨夜の母親の絶叫が耳に残っている。
(小説家になる夢の何が悪いんだよ)
私は頭を振って小説を読み続ける。今日は某文豪の長編を読んでいて、小難しい単語が多いのが私のいら立ちを増幅させていた。
図書館で正午の時報が鳴る。一斉に自習室から人が出て行った。すると見計らったかのように私のスマートフォンも震えた。
周りに人がいないのを確認してスマートフォンの画面を見た。メッセージが二通。一つは母親からで、何時に帰るのか、という短いメッセージだった。もう一つは――ユミカからだった。
〈午後の塾サボるから、会わない?〉
私は〈会う。今から中央駅に向かう〉と即答した。一分と経たずに〈オッケー〉と返事がきた。私はリュックに教科書や参考書を投げ入れると、小説と貸し出しカードを手に自習室を出て行った。
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